2023.09.26
20230926
こんにちは。一日文化人、早川でございます。というわけで、行って参りました。【「LIFECYCLING トークイベント 成瀬文子(×私)」in 無印良品グランフロント大阪】。
当日は、とあるバラエティー番組で用意された超巨大なソフトクリーム機のなかで巨大なソフトクリームに取り込まれまいと格闘するキムタクがカッコイイ、という謎に満ちた夢から目覚めるという非常に目覚めのよい朝でしたが、成瀬文子さんの様子がどうにもおかしい。沈黙の春、ならぬ、沈黙の秋。「おはよう」と声をかけると「おはよう」と言う。しかし、そこからしばらく黙る。なにか言葉を発したと思えば、「きょうも暑いね。秋冬ものの動きがあんまり良くないね」などとといった、(なぜ今!? なぜ今日、それを言う!?)というネガティブ発言をなさる。そう。あきらかに、緊張してなさる。緊張のせいで、一時的に闇落ちしてなさる。
いかん。いかんぜよ。いけないのは、彼女が緊張していることではありません。そうです。私は共感力が高いのです。隣にいる人に緊張されては困るのです。せっかくさほど緊張をしないままに当日の朝を迎えることができたのに、そんな成瀬文子さんを見ているうちに、こちらまでドキドキしてまいりました。そして、当の成瀬文子さんは私に緊張をうつしたことを確認すると「人にうつすと気が楽になるわ~」と、イベントに参加するスタッフのみんなとランチをするため、ひと足先に意気揚々とおうちを出発されました。これも予想通りです。しずかな家に残された私と息子。
おい、この緊張、どうしてくれるのだ! しかし、そんな私の心を唯一なだめることができる頼みの息子は好きな映画を見ながら「いやあ、この映画は後半で印象が全く変わるね。AKIRA の影響を受けている気がするけど、どう思う?」と、「今、それ、俺にとってはどうでもいいんじゃ!」というようなことしか言わない。「つーかさ、お前、両親がトークイベントとかしちゃって、それを息子の立場で観に行くっていうのはさ、どんな気分よ?」と聞くと「うーん。そうねえ。まあ、地獄のような空気にならないようにしてほしいな、くらい?」というようなことしか言わない。この母子!!
しかしですよ。私は本番に強いのです。そんじょそこらの方たちとは自己マインドコンロトール力が違うのです。よし。「文化人モード、セット、オン☝️!」。
ということで。この日のために美容室で事前に整えておいた髪をセットし、この日のためにわざわざ新調した靴を履き、お気に入りのサングラスをかけ、気分は芸能人、有名人、文化人。頼りにならない息子と電車で現場へと向かう電車の中では(嗚呼、乗客全員が私を見ている。でも、仕方がないのだ。そう。なぜなら私は、文化人。浴びせよ視線、浴びせよ、その熱視線)というイベント本番に向けたシミュレーションを脳内でしっかりと行ってまいりました。
無駄でした。
というわけで。調子こかない。はしゃがない。無駄な笑いをとりにいかない。このイベント三原則は緊張であえなく崩壊し、調子こいたし、はしゃいだし、無駄な笑いも網ですくいにいった始末ですが、私たち自身も、お越しいただきました皆さまにとっても、きっと、それなりに楽しいイベントになったのではないかと思われます。というか、そういうことにしていただきたいです。お願いします。ありがとうございます。
ともあれ、幸あれ、ひなあられ。
成瀬文子さんにとっても、私にとっても、息子にとっても、きっとスタッフのみんなにとっても、別世界だと思っていたちょいと晴れやかな舞台がすぐそこに、という大変に稀有な経験をさせていただいた気がしております。進行を務めてくださった IDEE の大島さん。無印良品のスタッフのみなさん。インスタライブを見てくださったみなさん。なにより、貴重な日曜日の午後に会場までお越しくださったハイセンスなみなさん。本当にありがとうございました。今日も今日とて。月曜日からはじまった展示会には山梨から片道6時間をかけて宝塚までお越しくださったお店の方がいてくださいましたが、こうやって時間を使って足を運んでくださったり。はたまた、洋服を買ってくださったり。改めて、すごいことだな、ありがいことだな、文字通り、本当に有難いことだな。そして、がんばらなきゃな、と心に沁みて感じた次第です。
イベントからクタクタになって帰り、いつもよりも早い時間に就寝をしました。そこで見た夢は「もしもこのとき、この人に出会っていなかったら」という出来事を振り返ってゆく、という夢でございました。なんか嘘っぽいですし、夢から教わるようなことでもないですが、人生ってのはつくづくご縁で積み上げられていくものでございますね。
追伸:
家族3人でお家へと帰る道すがら。人混みで溢れる大阪の駅で成瀬文子さんが「プリウス」とずっとつぶやいている。なぜか。それはイベント中、進行を務めてくださった IDEE の大島さんから「物を選ぶ際の基準は?」という質問をされた折、「どうして私はプリウスへの愛だけをあんなにも語ってしまったのか」ということをちょっと後悔していたのだと思われます。
わかりづらいですね。おそらく。彼女はざっくりとこんな流れで話をしたかったのだと思います。
「自分はこの12年間、プリウスといういわゆる大衆車が愛車である。しかしながら、洋服デザイナーという肩書きのせいなのか、周囲からはそれが意外だと言われることが多い。そして、自分自身もずっとどこかでそのように思ってしまっていた。しかし、そういった世間の評価をふと取り除いたとき、プリウス(30系)の持つデザイン性、性能のよさ、安心感に改めて気づいた。そのことに気づいたとき、これまであまり感じたことがない価値基準がふっと自分の中に浮上してきた。なにより、その価値基準はもともと自分の中にあったものだった。ほかでもない。これまで自分がデザインしてきた洋服がその証明であった」
きっと、そんなところを話したかったのでしょう。しかしながら、成瀬文子さんは「あやこ、プリウス、好き~」というポニョのような無邪気な感想のみで自分の話がプツンと終わってしまったことにやはりちょっとした反省と後悔をしているようでした。ただ、話のプロでもないのですし、ましてや、ああいう場でのことです。(わたし、なに話してたんだっけ)となることは容易に想像できます。
いつの日か。プリウスを通して知る彼女の “物を選ぶ際の価値基準とは何であるのか”。そして、その価値基準が自分のデザインにどう繋がっているのか。イベントにお越しくださっていたみなさま。その哲学を聞く、もしくは読める日を私もたのしみにしたいと思います。
そして。彼女は現在、歯の矯正中。イベント2日前に取り替えられた矯正器具に不備があり、実はイベント中に口の中が傷だらけのローラになっていた、ということも念のために書き加えておきましょう。
さらには、思い詰めた顔で帰る電車のなか、私も息子も(そんなに落ち込むことでもないのになー)と心配しておりましたが、なんということはない。服の中にカメムシが入って一人でしずかに焦っていたという事実もお知らせしておきます。あ、あと。最寄駅で降りたった刹那、周りから見れば半狂乱になって踊っている人に見えたかもしれない成瀬文子さんの服から出てきたカメムシは元気だったことも念のためにお伝えしておきます。
◎【Today’s Memo】は平日の毎朝8時に更新。atelier naruse 代表・早川による、ちょっとしたエッセーのようなもの、です