2023.08.28
20230828
私がごちゃごちゃと。プリプリと。こちらでも書いておりました夏休みの宿題問題。この週末、それらになんとかケリをつけた息子がベッドの中で村上春樹の小説『海辺のカフカ』を読んでいる。
それはほかでもない、私と成瀬文子さんが「これとか面白いと思うんと違うか?」と薦めたからで、どうして薦めたのかというと、件の宿題で 、息子がはじめての小説を書いたから、であります。
読書感想文でも、エッセイでも、なんでもどうぞご自由に、というお題だったようですが、そこでもっともハードルが高いと思われる「小説」に挑むことを決めたらしい息子は、まるで『耳をすませば』の月島雫のように「面白くはないんやけど」とできあがった原稿をやや緊張した面持ちで持ってきましたので、ありがたく読ませていただきました。
内容はこんな感じ・・・。
舞台は、「ERI」という女の子が存在している世界の話。ただし、ERIは人間とそっくりの姿をしているけれど人間ではない生命体。そして、いつのまにか主人公 “ぼく” たちの周りに存在していた「ERI」は、世界中のどこにでもいて、どの「ERI」も同じ姿をしていることを知る。
高い知能を持っているわけではないらしいが、どこか愛らしく、人々からとても愛されていた「ERI」は、やがてゆっくりと増殖をはじめる。小説では文中で使用される漢字が平仮名に移行していくことで増殖がはじまったことを表現しており、やがて使われる言葉がひらがなだけになったとき、主人公も「ERI」になっていた。
・・・といった感じの短編SFストーリーでございます。
ちなみに。だんだんと文中で使用される文字が平仮名だけになっていくのは、同じように文中で使用される五十音がひとつずつ失われていく筒井康隆の『残像に口紅を』のオマージュ。タイトルは『いとしのエリ』。もちろん、サザンオールスターズの『いとしのエリー』からのオマージュ。だそうです。
これだけ書くと、中学一年生にして(も、もしや。こ、こやつ天才か!?)と思われる可能性があるかもしれませんが、あくまでも小説を書こうとしたときに設定した内容と構成がそこにあるということで、息子が書き上げた小説がその当初の設定をものの見事に表現できているわけではございません。
ただ、それこそ『耳をすませば』のように、「雫さんの切り出したばかりの原石をしっかり見せてもらいました。よく頑張りましたね。あなたは素敵です。」といった感じでございました。
しかし、「筒井康隆なんてよく知ってたな」と言いましたらば「いや、読んだことはない」とのこと。こういうところに私自身は私の DNA をどことなく感じてしまいますが、それはさておき。たしかに小説を読んでいるところはあまり見たことがない息子に、私たちが薦めてみたのが『海辺のカフカ』であった、という経緯でございます。こういうときに薦めるのが村上春樹でベストなのかどうなのかは分かりませんが、小説を読む、というジャンルが人生に組み込まれた時の幸福を私たち夫婦は知っておりますので、その入り口としては悪くないはずです。何より、小説に興味を持ったのは自分が書いてみて面白いと思ったから、というのはなかなかに良きエピソードになるかと思われます。
いずれにしましても。やっぱり夏は子どもを成長させるのであります。そして、件のあれこれ宿題をそのことに上手く利用できた息子はなかなかに天晴れでございました。
こちらが公開されている「8月28日(月)」。ここいらの子どもたちは2023年の夏休みさいごの日、であります。なんかエモい、であります。
◎【Today’s Memo】は平日の毎朝8時に更新。atelier naruse 代表・早川による、ちょっとしたエッセーのようなもの、です