第二十六回 一年。

 みなさま。震災から一年が経ちました。おそらく多くの方がそうしたように、私もこの時期に合わせて組まれる関連番組を見て、関連記事を読み、その他さまざまな場所で語られている震災についてのことを見聞きしていました。

 震災直後は、『かんさい絵ことば辞典』の執筆がスタートした頃でした。当然、筆がうまく進むわけもありませんでしたが、締め切りまでの時間はそれほどなく、naruseの仕事も予定通りに進めると決めていましたから、すこしでも心の落ち着いた深夜にカタカタと原稿を書いていたことを思い出します。

 ただ、あの時期に"笑わせよう"と思って書いた原稿に対しては「なんだかなあ」という葛藤が常につきまといました。それでも深夜に書き終えた原稿を朝になって園子さんに読んでもらい、園子さんがそこで「ぷっ」と笑ってくれると少しほっとできた。ほっとできたのは、おもしろい原稿が書けたからということではなく、いや、それもありますが、なにより人の"笑顔"を見ることができたから、どんなときでも笑うっていうのはやっぱりいいもんなんだなと思えたからでした。

 

 正直なところ、震災のことを考えたときに一年前の自分と今の自分とでは気持ちにまるで変化がありません。なにをどう整理すればよいのかが本当にわかりません。まるであの日にタイムスリップしたかのように、相も変わらずあたふたしてしまいます。おそらく、はじめての経験です。はじめての経験ですが、被災地でどんどん前へ進んでいる人たちのことを思うと、そんな自分がとても情けなくなったりもします。

 

 それでも、「笑えることやドキドキすることは大いにやりなさい」と今なら自分に言えるなと思うのです。ですから、大いにやりたいと思います。もちろん、大いにドタバタしながらですが。そもそも「お前にそんなものを書けたり、つくったりできればな!」の話でもあるのですが。

 

 ともあれ、園子さんを、naruseのことを好きでいてくれて、ありがとうございます。

 こんなことを書かせてもらえる今をきちんとお返しできるように、これからも進んでゆきます。

 

 亡くなられた方の魂が、どうか、やすらかでありますように。

 みんなが、たくさん笑えますように。