第二十五回 NO NO THANK YOU,バスタオル。

 みなさま。恋人、太陽、テレビ、平和、音楽......。普段、私たちの身の回りには当たり前のように存在しているものがあります。いいえ、ものばかりではありません。園子さんが毎日してくれている家事、はたまた「本棚は洗濯機では洗えへんで、えへへへへ」、「それ、岩やんか!」といった毎晩のように聞こえてくるおかしな園子寝言、そういった行為、現象だってそうです。しかし、それって本当に当たり前なのでしょうか。

――親孝行したい時に親は無し

――諸行無常

――いつもより眺めがいい左に少し戸惑ってるよ

私たちは知っているのです。永遠不変、当たり前にあるものなど実はひとつもないということを。しかしながら、それでも毎日を過ごしてゆくなかで、宇宙時間からすればほんのわずかな時、数年、数十年のあいだに変わらなかっただけのさまざまなもの、行為、現象をまるで当たり前のように感じてしまうのです。ただ、それこそが人間であり、人間として生まれた宿命であり、言わばそれは、当たり前のことなのです。それでも、抗うべきだ。自分たちの持つ宿命には逆らってみるべきだ。当たり前のことを当たり前のこととせず、そうして、日々周りを取り囲むすこしでも多くのことに感謝し、ありがたがるべきなのだ。

 

そんなわけで、みなさま。みなさまは、バスタオルのことをどうお考えでしょうか。

バスタオルといえば、お風呂から上がった際、全身にまとった水滴をものの見事に吸い取ってしまうという便利な道具です。その一方で、洗濯をする際にはジーパンのポケット、パーカーのフードに次いで乾きにくい「もう一度ハンガーをつけ直して部屋干しBEST3」にランキングするという厄介な点も持ち合わせています。

そこで私は、園子さんには内緒でここしばらく密かな実験を行っていました。それは、バスタオルを使わないという実験です。

なんのために? ハヤオが大きくなるにつれ増えていく洗濯物、その際に湧き出る園子さんのイライラをすこしでも解消するために?そうとも言えますが、厳密にいえば、違います。

厳密にいいますと、「ん~不思議だわ。最近洗濯物のバスタオルが、私(園子)とハヤオの使った分、2枚しかない気がする。現に今日も2枚しかないわ。あの人、まさかお風呂に入っていないのかしら。まさかね。でも、そういえば、ちょっと臭い気もするわね。いいえ、あれは加齢臭よ。それに、最近は半身浴がいいんだお前もやれとかOLみたいなこと言っているし、お風呂には入っているはず。じゃあ、どうしてかしら。......ハッ! もしかしてあの人は少しでも洗濯物を減らそうとバスタオルを使っていないんじゃ。......あの人ったら。もう、馬鹿ね。バスタオルくらいなんてことないのに。でも、ありがとう。その気持ちがうれしい。嗚呼、なんてありがたい夫なのかしら。ありがたいわ。有難い。英語でいえば、NO NO THANK YOUだわ。つまり、THANK YOUだわ。ハヤオ、ねぇ、ハヤオ。あなたのお父さんは女性に対する気遣いがほとんど石田純一よ。クルールー」となってくれれば生活に張りが出てよいなぁ、『ある日のハナシのシ』で書かれている私も一時期に浜崎あゆみの元・旦那さんとかぶっていた"だんなはん"などではなく、ロングバケーションにおける桃ちゃんの"ダー"くらいにはなるかしら、という意図でした。

つまりは、計画的、誘導的な"旦那をありがたがらせようキャンペーン"だったわけです。

実際のところは、バスタオルの代用としてハンドタオルを使用したわけですが、それでも私は1ヵ月ほどのお風呂上りをハンドタオル王子として過ごしていました。

 

でも、気づかない。園子さんはまったく気がついてくれない。

 

 そうでした。みなさまはご存知ないかもしれませんが、園子さんは自分のiPhoneで音楽を聴きながら「携帯がない」と大騒ぎをされる波平よろしくな方なのでした。洗濯物にあるはずのバスタオルが1枚ないくらいのことに彼女が気づくはずもないことに私は気づいてしまいました。

 そもそも、洗濯時のバスタオルがハンドタオルに代わったくらいで旦那をありがたがるというようなこともなかったでしょう。どうして私はいつもこうなんだ。

 

 むしゃくしゃしながら私は1ヵ月振りに大きなタオルを手に取った。むしゃくしゃする気持ちをぶつけるように、濡れた髪をバスタオルごしに掻き毟る。あれ? 髪を拭いたのにまだ濡れていない布の部分がこんなにあるよ。これなら寒い冬でも冷やっとならずに身体を拭けるね。バスタオルってすごいね。バスタオルって、こんなにもありがたかったんだね。忘れていたよ。ありがたいね。有難い。英語でいえば、NO NO THANK YOUだね。

 

雨ニモマケズ

風ニモマケズ

雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ

丈夫ナタオルヲモチ

汗ハナク

拭キノコシモナク

イツノマニヤラカワイテヰル

サウイフタオルデ

ワタシハ拭キタイ

 

ん? なにかが聞こえてくるよ。バスタオル1枚減らすくらいならお前が洗濯物を干したほうがよっぽどいいじゃねぇか、って聞こえてくるよ。クラムボンスラ笑ワッテナイヨ。でもね、それは難しいよ。それはね、朝起きるのが遅いからだよ。今も深夜の4時だよ。こんな時間まで起きているから朝起きられないんだよ。悪循環だよ。でもね、そういうことに文句を言わない園子さんにはいつも感謝しているよ。ありがたいなと思っているよ。ただ、バスタオルって本当にすごいな、ありがたいなと改めて思ったから、しばらくハンドタオルでお風呂上りを過ごしてみるのも悪くはないと思うよ。

 

 主婦層支持率急降下、そんな夫はNO THANK YOU

 

 

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