第四話 満月前夜のオオカミ園子。

 知り合いの方から、春の野菜をいただきました。せっかくなので、早速おうちで野菜を切って、サラダにしてからいただこうと思いましたが、辞めておきます。野菜はまるかじりすることにして、野菜の代わりに世相を斬ってみようと思います。ズバッ。

 未曾有の不況と呼ばれる昨今、不況の実情そのものよりも、メディアによって煽られた幻想、妄想が不安感を助長し、その結果、財布の紐が固くなることで事態はさらに深刻化していると言われます。ズバァッ。

 それならば、固くなってしまった財布の紐をもう一度ゆっくり解いていけば良い。何を言っているんだ、お前はそんな偉そうなことを言える人間なのか。ええ。そんなことは、私にとっては朝飯前、むしろ今は寝る前です。つまり、造作もないことです。

では、その方法をここに記しましょう。「日本国の発行する紙幣、諭吉さん、一葉さん、英世さんを、すべてセーラー戦士に描きかえてしまいなさい」。そうすれば、お金を持っていることは、さして立派なことではないと思えてくるはずです。さすれば、お金はどんどん使われましょうぞ。また、これには闇献金などがなくなる効果もあります。「先生、これでなんとか頼みますよ」「ん? なんだね? やや、これはお金ではないか。君、私を馬鹿にしとるのかね。こんなものなど、いらん! まんじゅうを持ってきなさい! まんじゅうを」となり、政治家が皆一様に肥えはしますが、なんとも平和な光景へと変貌します。立派な人物、立派な行動、立派な紙幣。立派なものが必ず立派な結果を生むとは限らないんですよ、奥さん。朝ズバァッ。

 

 みなさん、同様のネタは以前にも書きましたが、みのもんた氏を連想させる象徴的な文言は「奥さん」ではなく、「お嬢さん」でしたね。

 

 さて、そんなわけで(どんなわけで?)、園子さんの話です。みなさんは、「ルナシー」という言葉を知っていますか。河村隆一のそれではなく、月の満ち欠けに強い影響を受ける人のことをルナシーと呼ぶのだと、どこかで聞いたことを記憶しています。あの、あえて正誤は調べませんが、そこはさして問題はありませんのでご了承ください。ただ、間違っている場合を考慮して、今回は月に影響される人のことを、仮に「真矢」と呼ぶことにします。

 で、園子さんは、その真矢なのです(うむ、我ながらややこしい)。では、園子さんはどういった月のときに真矢状態が生まれるのかというと、多くの真矢がそうであるだろう満月時ではなく、主に満月の"前夜"に現象が起こります。そしてそれはどういう現象かといえば、彼女のテンションが異常に高くなるのです。本人は「なんだかザワザワする」と、さとうきび畑のような表現をしますが、それもテンションの高潮によって生まれる心境なのでしょう。思い切り太鼓を叩いたり、狼男のように月に向かって大声で叫べば幾らか気分は落ち着くのかもしれませんが、我が家は夜10時を過ぎれば静まり返る住宅密集地。大きな音は出せません。また、事前にいつが満月なのかを知っておけばそれなりの対処法もあるのでしょうが、もともと面倒臭がりの私たち夫婦がそんなことをするはずもなく、急にテンションが上がり出した彼女を見て「まさか、今日は」と気付くのです。

 つい先日もそうでした。たまたま外での仕事がほぼ同時刻に終わった私と園子さんは、とある大型電器店へ足を運ぶことにしたのです。そのお店にはポイントカードがあり、本来であれば私たち夫婦は二人ともそれを所持しているはずだったのですが、なぜだか二人とも持っていない。まあ、急な思いつきで足を運んだわけですから、そういうこともあるでしょう。しかし、園子さんはレジの前で私を怒ったのです。「どうしてアナタも持ってないの」と。その姿はまるで、「月に代わってお仕置きよ」と叫ぶセーラームーンのよう、"私は正義"といった自身に満ち溢れた面持ちでした。園子さんのために言っておきますが、彼女は普段そのようなことをのたまう人ではありません。だからこそ、私は悟ったのです。「今日はあの日だ」と。

 

 いつか私が大金持ちになった暁には、完全防音の個人スタジオがある大きな家を建て、そこにドラムセットを置こうと思っています。満月の前夜、園子さんがそれを叩くのではありません。理不尽なことを言われても彼女の前で我慢をする私のため、私が叩くためのドラムセットです。そして私は、激しいリズムを刻むことでしょう。そう、ルナシー・真矢のように。