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日々「走ると体によくない」「んだんだ」

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日々

こんなすずしい日に 毎年着てみる 麻のちょっきがあります。くさむらとトンボの模様が入っています。これはイトトンボかな。数日前までは あついとおもっていたのに 長雨のせいもあってか 寒いくらいです。

さて 
今日は村上春樹さんの「遠い太鼓」ですね。

 すると三人は顔を見合わせて、僕の言ったことについてひとしきり討議する。僕はその間汗を拭くとか、周りの景色を眺めるとか、だいたいそういうことをしている。風も強いし、汗が冷えると風邪を引いちゃうし、早く走りたいのだけど、話はまだすんでいないからどうしょうもない。
「これから何処までは知るのか?」と男が質問を続ける。
「スーパー・パラダイス・ビーチ」と僕は答える。
「あそこ、けっこう遠い」と男が言う。
「ええ、まあそうですね」と僕。
「ずっと走っていくのか?」
「だから走るの好きですから」
「どうしてビーチまで走っていかねばならんのか?」と太ったほうのおばあさんが横から質問する。参ったな、僕のギリシャ語がやくざなせいかもしれないけど話が全然通じてないじゃないか。
「だからね、走るのすきなんですよ、おばさん」と僕もしつこく繰り返す。
「走ると体によくない」と眼鏡のおばあさんのほうが口を出す。
「んだんだ」と太った方が同意する。
 走るのが体に悪いなんて初めて聞いた説だが、二人のおばあさんはかなり真剣にそう思い込んでいるらしくて、両方ともしっかりと眉をひそめている。
「だいじょーぶです。ほら力強いから」と半ばあきらめ気味に力瘤なんか作ってみせたりして、やれやれ俺はいったいこんなところで何やってるんだろうと空しくなる。
 それからしばらく我々は意志を通じ合わせようと努力してみるが、いかんせん上手くいかない。風の強い日に、谷を挟んでどなりあっているような会話である。接点というものがない。男はなんだか良くわからんという風に肩をすくめ、両手を広げる。二人のおばあさんは寸づまりのキリンみたいにゆっくりとくびを振りつづけている。沈黙が下りる。ロバがぶるぶると身震いする。

ここで いっきに村上さんのファンになってしまった。
《 2021.08.25 Wed  _  読書の時間 》