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モームさん

スキャン4854.jpeg『月と六ペンス』

アタはかわいた床やたこのきのマットの上にパラフイン油をそそぎ、火をつけました。、まもなくくすぶる燃えさし以外にはあとかたもなくなってしまいました。こうしていだいな制作は消えてしまったのです。
「ストリックランドはこれが傑作であることを知っていたのでしょう。彼の望んでいたものが達成されたのです。彼の一生は完成されました。一つの世界を創り出し、それがすぐれていることを知りました。それから、誇りと軽蔑のあまり、それを破壊してしまったのです。(一つの世界を創り出し、それがすぐれていることを知りました。それから、誇りと軽蔑のあまり、それを破壊してしまったのです)(この誇りと軽蔑
これはどういうことなのかなあ)

「それはそうと私の絵をおめにかけなくてはクトラ医師はそう言うと、動き出した。
「アタとその子供はどうなりました?」
「あの二人はマルケーサス群島へ行きました。あちらにアタの親類がいますから。男の子はキャメロン商会のスクーナ船のどれかに乗組んでいるそうです。容貌は父親そっくりということです」
ヴェランダから診察室へ入る戸口で、医師は立ち留まってほほえんだ。
「果物の静物画です。医者の診察室に飾るにはあまりふさわしい絵じゃないとお思いでしょう。だが家内がどうしても客間に飾りたくないと言いますんでね。家内はまるで醜悪な絵だと言うんです」
「句dものの静物画ですか!」私は驚いて叫んだ。
私達は診察室に入った。私はすぐ絵に目を向けた。長い間眺めていた。
それはマンゴー、バナナ,オレンジ等の山であった。一目見た時は全く無邪気な絵だった。もしこの絵が好機印象派の展覧会に陳列してあったなら、不注意な人であれば、後期印象派の代表的な絵としてすぐれてはいるが、非常に非凡とはいえない、くらいのところで通ってしまうかもしれない。しかしおそらく後になって、この絵の思い出がその人達の心によみがえってくるだろう、そしてその人は何故だろうと不思議に思う。そうなったらもうその人は、一生この絵を忘れることができなくなる。
色彩は実に変っていて、言葉ではとうていそれらの色から受ける波立つ感情を言いあらわすことはできな
い。くすんだ青もある。巧妙な聴覚をほどかした瑠璃色のどんぶりのように不透明である。そのくせ神秘の生命の鼓動を思わせるようなかすかにゆらぐ光がある。紫もある。腐ったなまの肉のようにおそろしい。そのくせヘリオガパルス(204−22、ローマ皇帝、放蕩の限りをつくして悪名高い王)の頃のローマ皇帝を髣髴とさせるような白熱せる官能的な情熱を秘めている。赤もある。西洋ひいらぎの実のように真紅であるーイギリスのクリスマス、雪、ご馳走、子供のよろこびなどをしのばせるーそのくせ、何かの魔法の力によって、その赤は柔げられ、鳩の胸毛のように気の遠くなるような柔らかさを備える。濃い黄色もある。しかしそれは以上な情熱を伴って薄れゆき、はては泉のようにかぐわしく、山の小川のきらめく水のように清純な緑へと変る。どのような苦悩せる空想がこのような果実を生んだのか、誰にわかろう?これらの果実はポリネシヤもヘスペリデス(ギリシャ神話に出て来る、金のリンゴの楽園を守った四人の姉妹)の果樹園でとれるものだ。この果実の中には妙に生き生きと息づいているものがある。あたかもこれらの果実は、ものの形がまだ最終的に固まっていいなかった頃、つまり地球の暗黒時代に想像されたかのようだ。途方もなく豪華である。むせ返るような熱帯の香気を帯びている。それら独特の地味な情熱を秘めているように見える。魔力を持った果物で、それを食べると、人知れぬ魂の秘密へと通じる門や、想像の神秘的な宮殿へと通じるもんが開かれるかもしれない。
《 2021.06.07 Mon  _   》