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モームさん

スキャン4852.jpeg『月と六ペンス』 角川書店 昭和33年初版

アタが何か言っているのが聞こえた、次いでストリックランドの返事も。しかしそれはストリックランドの声とも思われなかった。かすれて不明瞭な声になっていた。クトラ医師は眉を上げた。病が既に声帯を侵しているなと判断した。やがてアタが出て来た。
「お会いしたくないそうです。お帰りください」
クトラ医師はぜひ診せてもらおうと言い張ったが、アタは医師を通そうとはしなかった。クトラ医師は肩をすくめ、一瞬考え込んだ末くびすを返した。アタは医師と連れ立って歩いた。アタも一刻も早くわしから逃れたがってるな、と医師は感じた。
「わしで役に立つことは何もないかね?」と医師がきいた。
「絵具を届けて下さい。あの人はそれ以外何も欲しがりません」
「まだ描けるのかい!」
「家の壁に描いています」
「お前にとっちゃ、つらい生活だろうね」
このときやっとアタは微笑した。アタの目には超人的な愛がこもっていた。クトラ医師はそれを見て驚くと同時に感嘆した。畏敬の念すら覚えた。何とも言う言葉がなかった。
「あの人は私の夫です」
「もう独りの子供はどこにいるね?」と医師がきいた。「この前来たときには二人いたろう」
「ええ、あの子は死にました。マンゴーの木の下に埋めました」
アタはしばらく医師と連れ立って歩いたが、やがて、もう戻らなくてはと言い出した。これ以上先へ進んで、もし村人の誰かに顔を会わせたら地変と恐れているのだろう、と医師は推察した。医師は再びアタに、もし用があったら使いの者をよこしさえすればよい、すぐ行ってあげると言い残した。

(ずっと一緒に 書いてある言葉とともに歩いています。言葉そのものが何よりも光っているからです。そして その途中で アタのことを犬ころのようにと言ったストリックランドのことを思い出しています。犬は人間じゃないので ずいぶん失礼な言葉だと思ったのですが 私達も犬のことを人間として見ていません、しかしそこはちがっても 犬ころに愛情を感じることにおいては まちがいありませんね。
ストリックランドのアタにたいする気持ちは そうなのでしょう よくわかりませんが 理屈抜きで。たてまえと そのまんまのちがいといいますか、たたいてもついてくるアタ それも犬ころだったら わかるようで。 愛情について 考えたことでした)(彼は女についてこう言っています「女って奴は風変りな小動物ですな」「結局、御などもにつかまってしまう。つかまったが最後、男は骨ぬきです。白人だろうと土人だろうと、女は皆同じですな」この中には今まで彼が出会った妻や自死した女などをこういうふうにとらえていたのかも、今こういうことを言えば いろんな意味で許されないでしょうが また考えさせられる彼の心の中なんですね)(アタはもはや人の言いなりになるやさしい土人娘ではなかった、意志の強固な女だった。驚くほど人が変った。ここではストリックランドという夫がいて子供がいるアタなんでしょうね)


きょうはここで止めておきますね。とても大事なところだと思うし もうすぐ終わりますからね。
しかし疑り深い私ですから 小説は事実とはちがうかもなどと。

 

《 2021.06.04 Fri  _  読書の時間 》