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モームさん

スキャン4834.jpeg『月と六ペンス』 角川書店
昭和33年初版

そこには真の力があり、自己を表明しようと努力している、と感じないではいられなかった。これらの絵は私に何かを言おうとしている、それが何であるかぜひ知らなくちゃならないと感じた。しかし私には何であるかわからなかった。これらの絵は私には醜くく見えたが、しかし、非常に重要な神秘を蔵していることを、あからさまに示すことなく、暗示していた。なんだか妙に人の気をじらすところがあった。私は分析することのできない感動を受けた。言葉ではとうてい言い表せない何かを、それらの絵は話しかけている。
(こういうふうにして人は絵を見ているのだと)(暗示)

おそらくストリックランドは、ぼんやりとながら、物質の中に精神的な意義を見出したのだろう。それが余りにも神秘的なので、不完全なシンボルを使って、それを暗示するより仕方がないのだろう。その様子はまるで彼がこの混沌とした宇宙の中に新しい図型を発見し、それを書き留めようと、悪戦苦闘しながら、不器用に努力しているかのようだった。表現することによって解放されようともがいている、苦しみもだえる魂を私は感じた。
(こんなに 言うか?)(解放?)

「君は手段をまちがえていたんじゃないのかな」私は言った。
「いったい何のことだい?」
「君は何かを言わんとしている。それはなんだか僕にはよくわからんが、絵に描くという手段は、それを言う最善の方法ではないんじゃないかな」
(そうかな)

といってもこれすら取りとめもないない空想にすぎないかもしれないがー彼は自分に取りついている何かの力から解放されようと、必死にもがいているということだ。しかしその力が何であるか、その解放もどういう道を採るかは、やはりあいまいなままである。我々は誰しもこの世で独りぼっちだ。真鍮の塔に閉じ込められ、合図によって他の人間と通じ合う他はない。しかもその合図は何ら共通の価値を持たないから、その合図の意味は曖昧であり、不確かである。我々は心の宝を他人に知らせようと痛ましい努力をするが、他人にはそれを理解するだけの力がない。そこで我々は型を並べてはいても、力を合わせることことなく、淋しく進む。他の人間をわかることもできず、亦他人からもわかってもらえずに。
(そうか 心の宝か 心の宝のような絵を見てみなきゃ) 

我々は、さながら、ある国に住んでいる人が、そこの言葉が殆どわからないために、心の中ではいろんな種類の美しい深遠なことを言いたいと思っていながら、結局は会話の手引書のお決まり文句しか言えない、頭の中はいろんな考で沸騰しているくせに、「庭師の叔母の傘が家にあります」暗いしか言えない
(笑い)そういう人隊とそっくりだ。
(ここ ストリックランドの絵の話とどーつながるってわけ?)

最後に私が受けた印象は、魂のある状態を表現しようとする物凄い努力だった。この努力の中にこそ、私にとって実に不可解に思われていたことの説明を求めるべきではないだろうか。色や形はストリックランドにとって、彼独特の重要性を持っていることは明白だ。彼は心の中に感じている何かを是が非でも伝達しなくてはいられなかったのだ。そして彼は、ただそれだけの意図のために、色や形を創造した。
(なんでそんなふうに思うようになったんやろ?)

自分が求めている未知のものに少しでも近づくためであるならば単純化も、歪めることも、躊躇しなかった。ここの事実は彼にとって意味がない。何故なら、互に無関係な小事件のより集まりの下に、彼は自分にとって重大な何かを探し求めていたのだから。まるで彼は宇宙の魂に気がつき、ぜひともそれを表現しなければならない羽目になっているかのようだ。
(こんな人おるんかいな)

私はこれらの絵を見てまごつきもしたし、面喰いもしたが、その中にはっきりとあらわれている情熱には、無感動ではいられなかった。
彼が気の毒でならなくなった。
(どうして?)

「きみが何故ブラーンシュ・ストルーヴに対する感情に負けてしまったか、今わかるような気がする」私は彼に言った。
「じゃ、何故だ」
「君は勇気がくじけたんだ。肉体の弱さが心に迄感染したんだ。そのために君は、ある目的地を求めて、危険な孤独の旅に駆りたてられている。その目的地に行き着けば、自分を苦しめている霊から完全に外脱できると思っているんだ。君は、おそらくは存在しないある寺院を求める永遠の巡礼だ。君がどのような不可思議な涅槃の境地を目指しているのか僕にはわからない。君自身はわかっているのか?君の探し求めているのは多分『神事湯あ」であり『自由』なのだろう、そして君は一瞬こうも思った。『愛』のなかでも外脱できるかもしれないと。君の疲れ果てた心は、女の腕の中に休息を求めた。しかしここにも休息は得られないと悟ると、君はその女を憎んだ。まるで容赦しなかった。何故なら君は君自身にも容赦しない男だからね。そして怖ろしさのあまりその女を殺した。何故なら君はかろうじてまぬがれた危険を思うと、逃れてもなお身震いを禁じえなかったからだ」
ストリックランドは干からびびた微笑を浮かべて、髭を引っぱった。
「君はおっそろしくセンチメンタルな奴だなあ」

(目的地を求める人 今日 寺で修業をしている人達のドキュメンタリーを見た。ストリックランドを
苦しめている霊というのは いいかえれば 目的地を求めてやまない つかめない見えないものなのかな。
私に彼は『君はおっそろしくセンチメンタルな奴」と言ってるしなあ。
人は(この作家は)ストリックランドとその絵に関して 当ってるかどうかは読む人に関係すると思うけど こんなに長く深い洞察でもって考えしゃべってくれるなんて 驚き!)

ふり返ってみると、ストリックランドについて書いてきたことは、非常に不満足に見えるにちがいないという気がする。曖昧なままである。おそらく彼の生活環境の中に色々と原因があったのだろうが、とにかく私は知らない。彼自身の口からは何も得られない。
(そのわりには いろいろと)

こんなに絵というのは 語らせるものなんやなあ。モームさん ストリックランドもいいけど まだ他にも無名の画家達のことを これぐらい語る人がいたらなあ 
《 2021.05.17 Mon  _  読書の時間 》