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モームさん

スキャン4832.jpeg『月と六ペンス』

ストリックランドが一度にこんなに沢山しゃべったのをきくのは初めてだった。
(そうね)
彼の語彙は貧弱だし、文章を作る才はまるでないから、感嘆詞や顔の表情や身振りや陳腐な文句をつなぎ合わせて、彼の言わんとするところを察する他はない。
「君は女が奴隷で、男は奴隷の主人であった時代に生まれるべきだったな」と私が言った。
「たまたまおれがまったく平常な男にうまれついているというにすぎんな」

「女は男を愛すると、その魂をつかんでしまう迄は満足しない。何故なら女は弱いから、支配する事を渇望する。(いろんな意見が飛び出して来そう)それ以下のものでは満足しないのだ。女は心が狭いから、自分が捉える事ができない抽象的なものを憎悪する。物質的なことで頭が一杯だから、観念的なものに嫉妬する。男は宇宙の果てをさまよっているのに、女は自分の家計簿の領域にとじ込めようとする。おれの女房のことを覚えているかい?ブラーンシュも徐々にありとあらゆる策を弄しはじめた。おれを罠にかけ、縛ろうと実に根気よく準備をすすめた。おれを自分のレベル迄引き下げたかったのだ。おれことなんかちっとも想っちゃいないんだ。ただおれを自分のものにしたかっただけさ。ブラーンシュはおれのためにどんなことでもよろこんでやってくれた。おれの望んでいる唯一のことを除いてはね、それはおれを放っといてくれることだ」(そうなんかなあ、女はこういう風に見られていて、男はこういうふうなんだと考えているんや)

「君が棄てたら、ブラーンシュはどうすると想っていたんだ?」
「ストルーヴのところへだって戻れたのに」ストリックランドは苛立たしげに言った。「あいつはよろこんで迎え入れようとしていたじゃないか」
「君には地も涙もないんだな」と私が言った。「君にこういう話をするのは、生まれつきの盲に色の説明をしてやるのと同じくらい無駄なことだ」
(だれがいっているのかわからなくなるわたし)
「ブラーンシュ・ストルーヴが生きているか死んでいるかってことに、君はちょとでも、しんから気にかけているのかい?」(これはストリックランドの質問?)
私は彼の質問をよく考えてみた。私は正直に答えたかった、少なくとも私の魂に対して。
「あの人が死んでも、僕にとって大したちがいはないとなれば、それは僕に同情心が欠けているせいだろう。ブラーンシュはまだまだ人生から多くのものを得られたのに、あんな残酷な方法で生命を奪われるなんておそろしいことだと想う。そして、僕はしんから気にしちゃあいないってことが恥かしいよ」
(正直だけどストリックランドからすれば本質に迫っていないってこと?)
「君は自分のの信念を断行する勇気がないんだ。人生なんて無価値だ。ブラーンシュ・ストルーヴはおれが棄てたから自殺をしたんじゃない。愚かな、心の不安定な女だったからだ。さあもうあのおんなのことなんかこれだけしゃべればたくさんだ、全くくだらない女さ。来いよ、おれの絵を見せよう」
(ほんまかいな)

私はストルーヴとその妻が、モンマルトルのいこごちのいいアトリエで過ごしていた幸せな生活を思い浮かべた、あの二人の素朴さ・親切さ、手厚いもてrなしを。それが無情な運命のいたずらのために、こっぱみじんにされるとは残酷なことだ。しかし、何といっても一番残酷なことは、実際には、そのために何等大したちがいは起っていないということだ。世の中はどんどん先へ進んでゆく、あの不幸な出来事があったとて誰一人損もしない。内心の感情より、外にあらわす感情の方が激しいあのダークですら、間もなく忘れるだろう。ブラーンシュの一生は、どのような輝かしい期待と夢を託されてスタートしたかは知る由もないが、生まれてこなくても一向にどうってこともなかっただろう。すべては無駄で空虚に想えた。
(考えさせられるなあ。生まれて来たことは空虚で無駄か)

「何故僕と付合いたがるんだ?」と私がきいた。「僕が君を憎んで、軽蔑しているのを知っているくせに」
「おれに対する君の苦情のたねが本当は何かというと、君がおれのことをどう思おうとおれがへとも思っちゃいない点なのさ」
彼の無神経な利己主義 彼が身につけている徹底舌無関心の鎧を私は何とかして貫き通してやりたい。しかし又、究極のところでは、彼の言ったことにも真実さがある。

此処で今日はおしまい。なんか人生について考えさせられながら


《 2021.05.15 Sat  _  読書の時間 》