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モームさん

スキャン4829.jpeg『月と六ペンス』角川書店 昭和33年初版

今日は頭がすっきりしません、どうしてかなといろいろ原因を考える私ですが、そしたらパソコンが同じようにスッキリ動きません、こんなとき「パソコンもええ年だからなあ」とあきらめかけます、そういう思考回路になっているのです。でいろいろやっているうちに もう一回はじめからパソコンをやり直してみると、あっさりとなおったのです、こういう機械って 「あっさりした相手を求めているんだなあ」とみょうに感心したりして。

突然、表を壁の方へもたせかけているカンヴァスが目に入った。それはストルーヴ自身がいつも使っているのより遥かに大型のカンヴァスだった。何故あんなところにあるんだろうと彼は不審に思った。そのカンヴァスに近づき、絵が見れるように自分の方へ倒した。裸体画だった。ここからが大変になって来るんです、はい。
(このモームの作品ほど そのデテール「むずかしい言葉つかっちゃった」をずんずんと表現して行くのにたけた人はいないんじゃないの?と。そうなると自分の下手な解説より「読んで下さいよお客さん」ということになりますね。)
彼はハッと息をのんだ。それはソファーに横になっている女が、片方の腕を頭の舌に、他の腕を身体に沿わし、片膝を立て、他の膝をまっすぐ伸ばした絵だった。ポーズは古典的なものである。ストリーヴは頭がくらくらっとした。
(ここは 「それはブラーンシュだった」ですましてしまえばそれまでなんですけど そうなるまでのデテールですわ)
(それからの彼は気が狂ったように見えない相手にありったけの声で叫ぶんです、しかしこれはアトリエでおきた話なんです、それを「私」にしているんです。こういうシーンは俳優は演技する時 やりがいがあるんじゃないでしょうかね。彼と「私」はナイフとフォークを持って食事中なんです、あやうく「わたしのところにナイフが飛んで来そうな勢いです。しかしすんでのところで 彼は手を開きナイフを放します。彼は気弱くかすかな微笑を浮かべて私を見た。何とも言わなかった)

「自分でもどうしてそうなったのかわからないんだ。おれはあの絵に、今まさに大きな穴をあけようとしたんだ。ぐっさり突きさそうとして腕を構えていたところなんだ。その時、おれは突然それを見たような気がしたんだ」
「何を見たんだ?」
「絵だよ。芸術品なんだ。おれにはとうてい触れることができなかった。おれはこわくなった」
「偉大な、すばらしい絵だった。おれは畏敬の念にとらわれた。おれはすんでのところでおそるべき犯罪をおかすところだった。おれはもっとよく絵を見るために少し動いた」

ストルーヴは、今までに覚えたことのないような感情を表現しようとしていたので、ありきたりの言い廻しではどうやって表現したらいいのかわからなかったのだ。彼は口では表現しえないような事を言い表そうとしている神秘主義車のようだった。しかし一つの事実だけは彼の口からはっきりと汲みとれた。人々は美というものを軽く口にする。言葉に対して不感症なので、美という言葉も不用意に使う。そのため美という言葉は力を失ってしまった。そうして美という言葉が表しているものは、無数のくだらない事物とその名を共にしているために、威厳を失ってしまった。人人は服のことも犬のことも鮭のことも「美しい」と言う、そうして本当に「美」と対面した時、これに気がつかなくなっている。無価値な考を飾ろうとしてあやまった誇張をするために、人々は感受性を鈍らせてしまっている。時たま霊感を受けた神通力を騙る山師のように、人々は濫用して力を失ってしまった。ところがこの不撓不屈の道化者のストルーヴは、彼自身の真面目な正直な魂と同じように、正直で真面目な美に対する愛情と理解力を持っている。彼にとって美は、信仰深き人にとっての神と同じことだ。だからストルーヴは美を見ると、怖れを抱くのだ。
(本当の美を受け取る人というものは そうなんですね)(怖れを抱くような絵)

「ストリックランドに会って何と言った?」
「一緒にオランダへ行かないかって」
「おれ達は二人ともブラーンシュを愛していたからね。おふくろの家にはストリックランドの入りこむ余地ぐらいあるだろうし、貧しい単純な人達と一緒にいることはあいつの魂に大きな益になると思うんだ。彼等から、何かあいつに非常に役立つものを学びとれると思う」
「で,あいつははなんて言った?」
「薄笑いをした。おれのことを、とんだ間抜けだと思ったんだろうよ。他にもっとしなけりゃならんことがあるんでね、と言った」
同じ断わるんでももっと他の言い方をすればいいのに、と私は思った。
「ブラーンシュの絵をおれにくれたよ」
何故ストリックランドはそんなことをしたんだろう、と私は思ったが、べつに何も言わなかった。
(自分とは違う人間に出会ったようです)


《 2021.05.12 Wed  _  読書の時間 》