『月と六ペンス』
「とにかく、あなたに強制的に妻子を養わせることだってできるんですよ」私はいささかむっとしてやり返した。「法律が妻子に何らかの保護を与えると思います」
「法律は石から血をしぼり出せるのかね・私は一文なしだ。百ポンドぐらいしかない」
ますます私の頭はこんがらかって来た。たしかにあのホテルを見れば、彼が窮迫しているのが察しられる。
「それを使ってしまったらどうなさるおつもりですか?」
「かせぐよ」
彼は冷静そのものだった。目には相変わらず小馬鹿にしたような微笑を浮かべているので、私の言うことは一々何となく間が抜けてみえる。私はしばらく口をつぐみ、次になんと言ったらいいだろうかと考えていた。しかし先に口を利いたのは彼の方だった。
「何故エイミは再婚しないんだろう?まだかなり若いし、魅力もまんざらなくもない。良妻である事は私が保証する。エイミがもし私を離婚したいのなら、必要な根拠をこっちから提供したってかまわない」
さあ今度は私の方がにやりとする番だ。彼はなかなか抜け目がない、しかし彼がねらっているのがこの点であることは明白だ。何か理由があって女と駆落した事実を隠している。そして女の居場所をかくすのに細心の注意を払っている。私はきっぱりと答えた。
「奥さんはあなたがどんな手を使おうとも絶対に離婚しないと言っておられます。奥さんは断乎たる決心をしています。離婚の希望はきれいさっぱりと思い切るんですね」
彼はびっくりした様子で私を見つめた。たしかにそれはみせかけの驚きではなかった。唇に浮かんでいた微笑は消え、彼はしんからまじめな態度で話した。
「しかし、君、私はどうだっていいんだよ。離婚されようとされまいと私にとっちゃいたくもかゆくもない」
私は声を立てて笑った。
「さあさあ、冗談はよしましょう、私達をそれほどの間抜けと思っちゃいけませんな。あなたが女と駆落したことはたまたま私達の耳にも入っているんですよ」
彼はちょっとぎくりとしたが、次の瞬間、いきなりどっと笑いこけた。彼の笑い声があまりに大きいので、近くに座っていた人達まで振り返り、中につりこまれて笑い出すものさえいた。
「何もそんなにおかしかないでしょう」
「あわれな奴さ、エイミは」彼はにやっと笑った。
次の瞬間、彼の顔はひどくにがのがしい表情に変った。
「なんてさもしい心をもっているんだ、女って奴は!愛か。いつだって色恋なんだ。男が自分を棄てりゃ、他の女を求めたのだとしか考えられないんだ。私が女のためにこんなことをするほどの馬鹿だと思うかね?」
*
「なんてさもしい心をもっているんだ、女って奴は!愛か。いつだって色恋なんだ。男が自分を棄てりゃ、他の女を求めたのだとしか考えられないんだ。私が女のためにこんなことをするほどの馬鹿だと思うかね?」
彼も 夫人も(もしここにいるとしたら) 「えっ?」ですよね。確かに女はそういう風に考えがちかもしれません。急に出て行くからいけないんですよ(笑い)
*
これは異国のトルコあたりの帽子にみえませんか
きれいな色でしょう
ここの特徴はひもを(下の段)グルグルとつなげて(針と糸で)ぬったところなんです
帽子はおってありますが ちゃんとかぶれるんですよ
グルグルつなげる事に興味を持ったのですね。 それがかなり大変ですが(今ではできません)