
『月と六ペンス』
「じゃあ、他の女のために奥さんを棄てたんじゃないっていうんですか・」
「勿論ちがう」
「名誉にかけて誓いますか?」
何故そんなことをきいたのかわからない。実に無邪気なことをしたものだ。
「名誉にかけて誓う」
「では、いったい何のために奥さんを棄てたのです?」
「絵をかきたかったから」
かなり長い間、私はじっと彼を見つめた。私には何のことやらわからなかった。こいつ気がくるっているんじゃないかな、と思った。その頃の私はずっと若かったし、ストリックランドを中年の男とみていたことを思い起していただきたい。私はすっかり驚きあきれてしまって、他のことは何もかも忘れてしまった。
「しかしあなたは四十ですよ」
「だからこそ、やり始めるのに絶好の時と思ったのだ」
「絵をかいたことはおありですか?」
「小さい時私はむしろ画家になりたいと思っていた。しかし父は私を実業家にしてしまった。芸術家じゃもうからんと言ってね。一年前から少しばかり絵をやり始めてみた。ここ一年間、夜のクラスに出ていたんだ」
「クラブでブリッジをしていらっしゃるものと奥さんが思っていた時、あなたが行っていらしたのはそこなんですか?」
「その通り」
「何故奥さんに言わなかったのです?」
「自分独りの胸にしまっておきたかったから」
「絵はお上手なんですか?」
「いやまだ。しかしそのうちにはね。だからこそここに来たのだ。ロンドンでは欲しいものも得られない。多分ここでなら得られるだろう」
「あなたくらいの年でやり初めて、いったいものになるものでしょうか?たいがいの人は十八からかき始めますよ」
「十八の時より今の方が早く上達する」
「何故御自分に才能があるとお思いになったのです?」
*
「あなたくらいの年でやり初めて、いったいものになるものでしょうか?たいがいの人は十八からかき始めますよ」
「十八の時より今の方が早く上達する」
このやりとりは 新鮮ですね。習い事は小さい時からと思っている人は多いんじゃないでしょうか。
ストリックランドは 四十にして画家になりたいと思ったのですね。
「「だからこそ、やり始めるのに絶好のときと思ったのだ」
どうしてなのかなあ。読者は色々な感想を持つでしょうね。
子供達もだいぶ大きくなり やりたい事をやれるエネルギーものこっている
ですかね? まさに今であっても こういう事は考えるんじゃないでしょうかね。
「絵をかきたかったから」
「何故奥さんに言わなかったのです?」
「自分独りの胸にしまっておきたかったから」
これも 私達はそれぞれの感想を持ちそうですね
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玉ねぎという植物は ほっておくとこんなふうに長い緑の葉をのばします
マチスの絵を思い浮かべます