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モームさん

スキャン4782.jpeg『月と六ペンス」角川書店 昭和33年初版

 事は当事者全部にとって実に切実な問題なのだが、彼の答えかたには、なんともいえず愉快なあつかましさがあったので、私は笑うまいとして唇をかんだ。こいつの行為はふらち千万なのだぞ、と自分に言いきかせた。自分を振るいたたせて、義憤の念をもやした。
「そんなことってあるものですか、お子さんのことだって考えなくちゃ。お子さんの方に何も罪はないでしょう。お子さんから生んでくれとたのんだわけじゃあるまいし、何もかもこんなふうになげやりにするんならお子さん達は路頭に迷いますよ」
「子供達は長い間、何不自由なく育てられた。大部分の子供よりはるかに豊かにね。それに、誰かが世話をみてくれるさ。いざとなりゃ、マックアンドルー家が養育費を出すだろう」
「あなたはお子さん達が可愛くないのですか?あんなにいいお子さん達なのに。もうお子さん達とは一切かかわりたくないっておっしゃるんですか?」
「小さかった時はけっこう可愛いと思ったが、大きくなった今は、べつに可愛いいとも何とも感じないね」
「そんな不人情なことって」
「そうかもしれん」
「ぜんぜん恥かしいとは思っていないようですね」
「いないね」
 私は別のやり方を試みた。
「誰だった、あなたみたいな下等な奴はいないと思うでしょう」
「思わせとくがいい」
「人から蛆虫のようにきらわれたり、軽蔑されたりしても、平気ですか」
「平気だね」
 彼の短い返事がいかにも馬鹿々々しいという調子だったので、ごくあたり前の私の質問が、まるで間抜けたものになってしまった。一、二分私は考えた。
「仲間に悪く思われていると気づいていながら、のうのうと暮らしてゆけるものでしょうか?気になり出すことはないと言いきれますか?誰にだって良心のようなものはあります。そしてそれがおそかれ早かれあなたをあばき立てるでしょう。仮に奥さんが死んだとしたら、後悔の念にさいなまれはしませんか?」
 ストリックランドは答えなかった。私はしばらく彼が話しだすのを待った。とうとうしびれをきらして、私の方から沈黙を破った。
「どうお答えになります?」
「君は大間抜けだ、答はそれだけさ」

ストリックランドと彼との会話は 人によっては 色々な受け取り方があると思いますが 
会話を読んでいて それは自分の家のこと 子供達のこと あらためて振り返ってみたり 今考えてみたりしました。
「子供達は長い間、何不自由中なく育てられた。大部分の子供よりはるかに豊かにね。それに、誰かが世話をみてくれるさ。いざとなりゃ、マックアンドルー家が養育費を出すだろう」
我々は何不自由なくくらせている時には あまり考えていないのかも知れないと 私などは思うのです ストリックランド夫人と同じようにね。 その事に気づかされるというのか
しかし ストリックランドは もう飛び込んでいるんですね。その覚悟の姿に興味を持ってしまいました。事を起こすとはこういうことなんでしょうね 一般的な世間的な者の考え方ではないという。今迄の生活を大きくかじとりをかえるということ。しかしそこからはどうなるかわからない。

彼はあらゆる世間的な考えをストリックランドに話しています。

はさみです。
「ばかとはさみはつかいよう」でしたっけ? 自分は諺を大きく間違える事がよくあるので 自信ないですが。このはさみいい形をしているでしょう? ところがどっこい、てんで使い物にならないんですよ。
写真の中で 立派です。 
《 2021.03.22 Mon  _  読書の時間 》