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モームさん

スキャン4781.jpeg「月と六ペンス』

彼は首を振って、ほほえんだ。
「奥さんはあなたにこんな仕打ちをされてもしかたがないことをなさいましたか?」
「いや」
「奥さんに何か不満でもありますか?」
「何も」
「では、十七年間も結婚生活をしたあげく、何一つ欠点もない奥さんをこんなふうに棄ててしまうなんて、ふらち千万じゃありませんか?」
「ふらち千万だ」
 私はびっくりして相手の顔を見つめた。私の言うことに一々心から賛成するので、私はすっかり先手を打たれた形だった。おかげで私の立場は馬鹿げたものといわない迄もややこしいものになった。私が心準備をしていた態度は、相手を納得させるように、心を動かすように、勧告するように、いさめるように、さとすように、しかももし必要とあれば相手をののしり、憤然とし、皮肉ってもみようと考えていた。ところが、罪人がいささかもためらわずに自分の罪を告白するに到っては、賢明なる指導者たるものはいったいどうしたらよいのであろう?私にはこんな経験は初めてだった。だいたい私自身はいつも物事を否定ばかりしている方だったから。
「それで?」とストリックランドがきいた。
私はふんといった調子で口をゆがめてみせた。
「そうですね、御自身でもそう思っていらっしゃるなら、べつに大して言うべきことはなさそうですね」
「ないだろうね」
いっこうにうまく使命を果たしていないと感じて、私は明らかにいらいらしてきた。
「冗談じゃない、一文なしのまま夫人を見棄てるなんてことはできませんよ」
「何故?」
「奥さんはどうやって暮らして行くんです?」
「十七年間、私が養ってきたんだ、今度は自分で養ってみたらいいだろう」
「そんなことできませんよ」
「やらしてみたらいい」
これに対する答えは勿論いくらでもあった。夫人の経済上の立場を説いてもよければ、結婚によって当然男が引き受けるべき暗黙にしてしかも公然たる契約について伝々してもよければ、その他にもいろいろの答えようはあった。しかし本当に重要な問題はただ一つだと感じた。
「もう奥さんを愛していらっしゃらないのですか?」
「ぜんぜん」と彼は答えた。

私はびっくりして相手の顔を見つめた。私の言うことに一々心から賛成するので、私はすっかり先手を打たれた形だった。おかげで私の立場は馬鹿げたものといわない迄もややこしいものになった。私が心準備をしていた態度は、相手を納得させるように、心を動かすように、勧告するように、いさめるように、さとすように、しかももし必要とあれば相手をののしり、憤然とし、皮肉ってみようと考えていた。

これだけ心準備してストリックランドに対面したのに あっさりとかわされてしまったというか 調子抜けしてしまいましたね。

バットマンかなあ。子供の絵です。
《 2021.03.21 Sun  _  読書の時間 》