who am ?I

PAGE TOP

  • 03
  • 07

モームさん

スキャン4770.jpeg『月と六ペンス』

「あの人は独りじゃありませんのよ」
 私は口をつぐんだ。チャールズ・ストリックランドを訪問して、名刺を通じている自分の姿が浮かんだ。彼が部屋に入って来る、私の名前を指でつまみながら。
「わざわざおたずねいただいたのは、何のためでしょうな?」
「奥さまのことで、お邪魔にあがりました
「なるほど。あなたがもう少し年をとっていらしたら、他人のことにくちばしを入れない方が有利だと悟られること間違いなしですな。ごめんどうながら、ちょっと頭を左の方へ向けていただければ、戸が見えましょう。では、失礼します」
 威厳をうしなわずに退場するのはむずかしいにちがいない。ストリックランド夫人がごたごたをさばいてしまうまで、ロンドンに帰ってこなけりゃよかった、とつくづく思った。ちらと夫人の方を見た。考え込んでいるらしい。やがて目をあげて私を見、深いため息をつくと、ほほえんだ。
「何もかもあまりにも思いがけないことで」と夫人が言った。「私達は十七年間夫婦でした。チャーリが誰かにうつつをぬかすような人だとは夢にも思ったことはありませんでしたわ。いつも夫婦仲はしっくりいっていましたもの。それは勿論、私が興味を持っているものであの人には興味のないものはたくさんありましたけれど」
「もう誰だかわかりましたか、そのー」ー何と言ったらいいかわからなかったー「その人は?御主人が一緒に逃げたって人は?」
「わかりませんの。誰にも見当がつかないらしいんです。ずいぶん不思議なことだわ。大抵は、男の人が誰かと恋におちたら、二人が一緒にいるところを見かけるものでしょ、昼食をしているところとか何か。そしてその女の友達が妻のところに来て告げ口をするのが普通ですわね。私は誰からも忠告をうけなかったわーぜんぜん。ですから、あの人の手紙はまるで雷が落ちたようなものでした。あの人はしんから幸福なのだとばかり思っていましたもの」
 夫人は声をたてて泣きはじめた。かわいそうに、私は夫人が気の毒でたまらなかった。しかし、すぐに夫人は気を取り直した。
「ばかな真似をしたってはじまりませんわ」涙を拭きながら、夫人はそう言った。「どうするのが一番いいかきめなくてはなりません」
 夫人は言葉をついだ。どちらかというと思い付くがままといった調子で、ごく最近のことを話すかと思えば二人の最初の出会いや結婚について話す。しかし程なく私の頭の中で彼等夫婦の生活の絵巻物がかなり首尾一貫して形作られてきた。

彼が ストリックランド夫人の結婚生活について、今とか過去とか 話を聞いていきますと
「彼等夫婦の生活の絵巻物がかなり首尾一貫して形作られてきた」とありますね。
この小説は聞き上手で(笑い)いろんなことを夫人に喋らせ 彼がストリックランドに出会ったらどういわれるだろうとか 想像しながら夫人の結婚がどういうものであったのか探りを入れていますね。
これはバカじゃあ出来ませんよ

でも この作家は 主人公が若い独身の 世間知らずの男性のように描いていると 読者の私は思っていたんです。ところがここらあたりではそうでもない。そんなおばかさんが ここまで考えられるのかなあ などと。 しかしおばかさんだと見ている読者の自分も 彼のことをしっかり読めていないかも知れないから
次の続きをまた見てみましょうね


この布は母がどうやら蒲団に使っていた布らしいです
今頃こういう布が いいなあ 懐かしいなあと思います
本 これも180円の古い そのくせ存在感のある本です
本の上に本って書く 隣の丸いものはくるみ
ほつれた糸








《 2021.03.07 Sun  _  読書の時間 》