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モームさん

スキャン4767.jpeg『月と六ペンス』

「おそろしいことですな」通りに出るや否いなや、大佐はそう言った。
 大佐が私と一緒に出て来たのは、既に何時間も義妹と話合ったことをむしかえすためだったのだな、と気がついた。
「連れの女が誰だか知らないんですが、知っている事は、あのならず者がパリへ行きおったことです」と大佐は言った。
「あの夫婦は実にうまく行っているとばかり思っていました」
「うまく行っていたんですよ。現にあんたが入ってこられる前でしたが、エイミは言っとりました。結婚している間、ただの一度も言い争ったことはないそうです。エイミの人柄は御存知でしょう。この世にあんないい女はいませんよ」
 このように内緒話を押しつけられたからには、二、三の質問をしたって悪くはあるまい。
「じゃあ、奥さんは何も気づいていらっしゃらなかったわけですか?」
「何も。きゃつはエイミと子供といっしょに、ノーフォクで八月を過ごしました。いつもとちっとも変った様子はありませんでした。わしら、妻とわしは、二、三日そこへ行って、わしはあれ達とゴルフをやりました。きゃつは九月になるとロンドンへ戻って、相棒が代りに休暇へ出られるようにしてやりました。エイミは引続き田舎におりました。あれ達は六週間の契約で家を借りていましたが、期限がきれた時、エイミはしかじかの日にロンドンへ帰ると夫へ手紙を出しました。きゃつの返事はパリから来ました。今後エイミとは暮らさない決心をした、と言うのです。
「で、その言い訳は何でした?」
「それがあんた、言い訳なんか何も書いちゃいません。わしはその手紙を見ました。せいぜい十行くらいのもんでしたよ」
「しかし、そいつはずいぶん妙ですね」
 ちょうどその時、私達は通りを横切るところだったので、行き交う車のために話を続けるわけにはゆかなくなった。マックアンドルー大佐が話してくれたことはとうていありそうもないことのように思えた。そこで私はこう疑ってみた、ストリックランド夫人自身に何かわけがあって、事実の一部分を大佐にかくしているのではなかろうかと。十七年も夫婦生活を続ければ、夫婦の仲がすべてしっくり行っていないらしいと妻に感づかせないではおかないような出来事も起こらずに、妻を見棄てることはありえないことだ。大佐は私に追いついた。

大佐は 彼にいろいろ話しましたね。そうだ、 エイミは義妹なんですね。
それぐらい、といわれそうなんですが そうすると「きゃつ」と大佐はどういう間柄なんです?大佐はエイミとその夫のことで その夫のことをかんかんに怒って悪く言っていますね。
この経過は探偵小説のようです。「しかし、そいつはずいぶん妙ですね」などと。
私の妄想もふくらみますが 今少し経過を見てみましょうか。

おわんのなかに 布切れを一枚
《 2021.03.04 Thu  _  読書の時間 》