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モームさん

スキャン4765.jpeg『月と六ペンス』

 大佐はウイスキーをがぶりと飲み下した。大佐は背が高く、痩せぎすの五十男で、垂れ下った口髭と灰色の髪、薄青い眼の意志弱そうな唇を持っている。この前大佐と会って以来覚えていることは、軍隊をやめるまでの十年間一週に三度ボーローをやりつづけた事を自慢している、間抜けな顔の男だということだった。
「おそらくストリックランドの奥さまは、今のところ私にお会いになりたくないにちがいありません」と私は言った。「奥さまにお伝えいただけましょうか、私が大変お気の毒に思っていますことを?何か私にできることがありましたら、よろこんでさせていただきます」
 大佐は私の言うことなど気にもとめなかった。
「いったいエイミはどうなるんだろう?それに子供のことだってある。霞でも喰って生きていけってのか?
十七年も」
「十七年がどうしたんです?」
「結婚していたんだ」多差はがなりたてた。「いつも虫が好かんかった。そりゃああいつはわしの義弟だった。わしもできるかぎりのことはした。あんたはあいつを紳士だと思いますか?エイミはあんな奴と結婚すべきじゃなかったんだ」
「もうぜんぜんとりかえしがつかないんでしょうか」
「エイミのとるべき途は一つしかない。それはきゃつを離婚することだ。あんたが来られた時わしがエイミに言っていたのも、そのことだったんです。『離婚申請の火ぶたきりなさい、エイミ。あんた自身のためにも、子どもたちのためにもそうするのがあんたの義務じゃ』とわしは言いました。きゃつもわしに姿を見られんようにするこったな。見たが最後、息の根がとまらんばかりに打ちすえてくれるわ」
 マックアンドルー大佐にとっちゃ、そいつはちとむずかしいんじゃないかな、ストリックランドはなかなか屈強そうな男に見えたぞ、私にはどうもそんなふうに思えてならなかったが,、私は何も言わなかった。憤怒にもゆる正義漢が直接罪人に懲罰の手を下すだけの腕力を備えていないということは、いつの場合でも悲しむべきことである。もう一度帰るきかけを作ろうと決心した時に、ストリックランド夫人が戻って来た。眼の涙を拭きとり、鼻には白粉をたたいてあった。
「いきなり泣き出したりしてゴメンナサイ」と夫人が言った。「よかったわ、帰っておしまいにならなくて」

ここのシーンで 思い描いたのは無声映画、それぞれの声は男の弁士が語るのです。
大佐は ストリックランド夫人のお兄さんなんですよね、ストリックランドにとっては義兄、ようやく
少しずつですが 名前だとか間柄だとか わかりつつある私です。

長ーい電話中
私はもっぱら聞き役。その間に描くものは案外面白いのです。 

《 2021.03.02 Tue  _  読書の時間 》