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モームさん

スキャン4764.jpeg『月と六ペンス』

私はそしらぬふりをして、何とかしてストリックランド夫人を話にひっぱりこもうとした。大佐は相かわらず暖炉の前につっ立ったまま、一言も口をきかない。早々に退散したいが、いつ頃ならおかしくないかと思案していた。それにしても、何故ストリックランド夫人は私を中へ入れたんだろう。花も飾っていないし、夏の間しまってあったいろいろな置物も元通りになっていない。いつもはあんなに親しみのあった部屋なのに、今は何となくさむざむとして固くるしい感じがする。まるで壁一重へだてた向こうでは誰かの死体が横たわっているような奇妙な感じを覚えた。
「たばこを召し上がりますか?」とストリックランド夫人がきいた。
 夫人は見廻してたばこ入れをさがしたが、見当たらなかった。
「ないようですわ」
 いきなり夫人はわっとばかりに泣きくずれて、部屋から駆け出していった。
 私はぎくっとした。たばこは大抵夫が持ってきてくれたから、たばこが見当たらないという事でいやでも又夫の事が思い出されたのだろう。なれっこになっていた、ささやかなたのしみのかずかずが今はもうないのだという新たな考えがこみ上げてきて、急にたえられなくなったのだろう。今までの生活はすっかり崩れ去ったのだと気づいたのだ。もうこれ以上社交上の仮面をかぶり続けるわけにはゆかない。
「おいとました方がよさそうですね」と大佐に言うと、私は立ち上った。
「お利きになったでしょうな、あのならず者めがエイミを見捨てたことを」大佐はいきなり吐き出すように大声で言った。
 私はためらった。
「人の噂なんていい加減なものですからね。何か工合の悪いことがおこったらしいとは、それとなく聞かされましたが」
「きゃつは駈落しおった。女と一緒にパリへ逃げたんだ。エイミを一文なしのまま見棄てて」
「どうもお気の毒ななことです」他に言うべき文句も浮かばなかったので、私はそう言った。

えらいところに 通されたものです

習字の練習なのでしょうか その和紙には のびやかなかな文字がありました。額がくるんであったのです。その日にやって来た物が 私の遊び相手になってくれます。だいこんはお隣さんにいただきました。
《 2021.03.01 Mon  _  読書の時間 》