こころ 先生と遺書 夏目漱石 つづき
私は突然『奥さん、お嬢さんを私にください』と言います
奥さんは しばらくとまどっているようでしたが
『ください ぜひください』と「私」は言います
『あげてもいいが、あんまり急じゃありませんか』と奥さん
『急にもらいたいのだ』とすぐ答える「私」
『よく考えたのですか』
『よござんす、差し上げましょう』『差し上げるなんていばった口の聞ける境遇ではありません。どうぞもらってください。御存知のとおり父親のいない哀れな子です』
最初からしまいまでおそらく十五分とはかからなかったでしょう。
当人にはあらかじめ話して承諾を得るのが順序らしいと私が注意した時、奥さんは
『大丈夫です。本人が不承知の所へ、私があの子をやるはずがありませんから』
*
もう気が抜けました