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こころ 夏目漱石

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こころ 先生と遺書 夏目漱石 つづき

突然彼の用いた『覚悟』という言葉を連想しだしました。すると今までまるで気にならなかったその二字が妙な力で私の頭をおさえはじめたのです。

「Kの果断に跳んだ性格は私によく知れていました。彼はこの事件についてのみ
優柔な訳も私にはちゃんとのみ込めていたのです。つまり私は一般を心得たうえで、例外の場合をしっかりつらまえたつもりで得意だったのです。ところが『覚悟』という彼の言葉を、頭の中で何べんも咀嚼しているうちに、私の得意はだんだん色を失って、しまいにはぐらぐら動きはじめるようになりました。私はこの場合もあるいは彼にとって例外でないのかもしれないと思いだしたのです。すべての疑惑、煩悶、懊悩、を一度に解決する最後の手段を、彼は胸の中に畳み込んでるのではなかろうかと疑りはじめたのです。
そうした新しい光で覚悟の二字をながめ返して見た私は、はっと驚きました。その時の私がもしこの驚きをもって、もう一ぺん彼の口にした覚悟の内容を公平に見回したらば、まだよかったかもしれません。かなしいことに私は片眼(めっかち)でした。私はただKがお嬢さんに対して進んで行くという意味にその言葉を解釈しました。
《 2019.09.22 Sun  _  読書の時間 》