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こころ 夏目漱石

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こころ 先生と遺書 夏目漱石 つづき

『覚悟?』 『覚悟ー覚悟ならないこともない』
彼の調子は独言のようでした。また夢の中の言葉のようでした。

 「そのころは覚醒とか新しい生活とかいう文字のまだない時分でした。
しかしKが古い自分をさらりと投げ出して、一意に新しい方角へ走りださなかったのは、
現代人の考えが彼に欠けていたからではないのです。彼には投げ出すことのできないほど
尊い過去があったからです。彼はそのために今日まで生きてきたといってもいいぐらいなのです。だからKが一直線に愛の目的物に向かって猛進しないといって、けっしてその愛のなまぬるい事を証拠立てるわけにはゆきません。いくら熾烈な感情が燃えていても、彼はむやみに動けないのです。

Kはどうしてもちょっと踏み留まって自分の過去を振り返らなければならなかったのです。そうすると過去がさし示す道を今までどおり歩かなければならなくなるのです。そのうえ彼には現代人のもたない強情と我慢がありました。
《 2019.09.21 Sat  _  読書の時間 》