「こころ」 夏目漱石 先生と私 つづき
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私はその翌日も暑さを冒して、頼まれものを買い集めて歩いた。手紙で注文を受けた時はなんでもないように考えていたのが、いざとなるとたいへん億劫に(おっくう)感ぜられた。私は電車の中で汗をふきながら人の時間と手数に気の毒という観念をまるでもっていない田舎者を憎らしく思った。
私はこの一夏を無為に過ごす気はなかった。国に帰ってからの日程というようなものをあらかじめ作っておいたので、それを履行するに必要な書物も手に入れなければならなかった。私は半日を丸善の二階でつぶす覚悟でいた。私は自分に関係の深い部門の書籍棚の前に立って、隅から隅まで一冊ずつ点検して行った。
買物のうちでいちばん私を困らせたのは女の半襟であった。小僧に言うと、いくらでも出してはくれるが、さてどれを選んでいいのか、買うだんになっては、ただ迷うだけであった。そのうえ価がきわめて不定であった。安かろうと思って聞くと、非常に高かったり、高かろうと考えて、聞かずにいると、かえってたいへん安かったりした。あるいはいくら比べてみても、どこから価格の差異が出るのか見当がつかないのもあった。私はまったく弱らせられた。そうして心のうちで、なぜ先生の奥さんを煩わさなかったかを悔いた。
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これ何の話でしでたっけ
ちょっと休みましたんですが そうすると 「私」がどうしてこんなにデパートの買い物にやっきになっているのかわからなくなってきました
田舎に帰るので 家のものから買って来てほしいものを頼まれたんでしたっけ
それでなくても ちびりちびりの連載ですのに
私も田舎から東京に出て行った学生ですが 夏休みともなると なぜか意気込んでしまい
あれもこれもと計画を立てたものですが 暑いから休むための夏休みであっても そうはしてられない 日本人 今から考えますとそう思います
結局 実行できなかった方が圧倒的で なにをやらせても 自由を謳歌できない私でした