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こころ 夏目漱石

「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき

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 あばくという言葉が突然恐ろしい響きをもって、私の耳を打った。私は今私の前にすわっているのが、一人の罪人であって、ふだんから尊敬している先生でないような気がした。先生の顔は青かった。
 「あなたはほんとうにまじめなんですか」と先生が念を押した。「私は過去の因果で、人を疑りつけている。だからじつはあなたも疑っている。しかしどうもあなただけは疑りたくない。あなたは疑るにはあまりに単純すぎるようだ。私は死ぬまえにたった一人でいいから、ひとを信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。あなたは腹の底からまじめですか」
 「もし私の命がまじめなものなら、私の今言ったこともまじめです」
 私の声はふるえた。
 「よろしい」と先生が言った。「話しましょう。私の過去を残らず、あなたに話してあげましょう。その代り....。いやそれはかまわない。しかし私の過去はあなたにとってそれほど有益でないかもしれませんよ。聞かないほうがましかもしれませんよ。それから、ー
今は話せないんだから、そのつもりでいてください。適当の時機が来なくちゃ話さないんだから」
 私は下宿へ帰ってからも一種の圧迫を感じた。


私は過去の因果で、人を疑りつけている。だからじつはあなたも疑っている。しかしどうもあなただけは疑りたくない。あなたは疑るにはあまりに単純すぎるようだ。私は死ぬまえにたった一人でいいから、ひとを信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。

疑り深い私は この先生の疑りに感心しているところです
あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。

なれそうにはありませんが....
お客さんはどうですかな
《 2019.04.12 Fri  _  読書の時間 》