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こころ 夏目漱石

「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき

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 犬と子供の去ったあと、広い若葉の園は再びもとの静かさに帰った。そうして我々は沈黙にとざされた人のようにしばらく動かずにいた。うるわしい空の色がその時次第に光を失ってきた。目の前にある樹はたいがい楓であったが、その枝にしたたるようにふいた軽い緑の若葉が、だんだん暗くなっていくように思われた。遠い往来を荷車を引いて行く響きがごろごろと聞こえた。私はそれを村の男が植木か何かを載せて縁日へでも出かけるものと想像した。先生はその音を聞くと、急に瞑想から息を吹き返した人のように立ち上がった。
 「もう、そろそろ帰りましょう。だいぶ日が長くなったようだが、やっぱりこう安閑(あんかん)としているうちには、いつのまにか暮れてゆくんだね」
 先生の背中には、さっき縁台の上に仰向きに寝た痕が(あと)いっぱいついていた。私は両手でそれを払い落した。


もう 移り変わって行くその場所の光が ともに私にも見えて来るようです。
夏目漱石という人は 話の幹を忘れてしまうほど あたりのことやらを ふっくらとふくらましてくれるのですね。「何の話でしたっけ」 自分もよくやりますが そこはもううまいというか。
この本 いそいで読む人には このあじわい わかるのかなあ。
夏目漱石の本を やっと読むことにして もしかしてはじめて その なにか うまくいえないけれども 感じ入っているのかもしれませんね。 
《 2019.04.02 Tue  _  読書の時間 》