「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき
26
「先生どこかに散歩しましょう。外へ出るとたいへんいい心持ちです」
「どこへ」
私はどこでもかまわなかった。ただ先生をつれて郊外へ出たかった。
一時間ののち、先生と私は目的どおり市を離れて、村とも町とも区別のつかない
静かなとこをあてもなく歩いた。私はかなめの垣から柔らかい葉をもぎ取って芝笛を鳴らした。
ある鹿児島人を友だちにもって、その人のまねをしつつ自然に習い覚えた私は、この芝笛というものを鳴らすことがじょうずであった。私が得意にそれを吹きつづけると、先生は知らん顔をしてよそを向いて歩いた。
*
この先生というのは 考えてみればおもしろい人ですね
私というのは 芝笛をじょうずに吹いているのだから ちょっとぐらい なにか言ったげればいいのにね