「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき
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東京へ帰ってみると、松飾りはいつか取り払われていた。町は寒い風の吹くにまかせて、どこを見てもこれというほどの正月めいた景気はなかった。
私はさっそく先生の家へ金を返しに行った。例の椎茸もついでに持って行った。ただ出すのは少し変だから、母がこれをさしあげてくれと言いましたとわざわざ断わって奥さんの前へ置いた。椎茸は新しい菓子折に入れてあった。丁寧に礼を述べた奥さんは、次の間へ立つ時、その折を持ってみて、軽いのに驚かされたのか、「こりゃあなんのお菓子」と聞いた。奥さんは懇意になると、こんなところにきわめて淡白な子供らしい心を見せた。
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椎茸がお菓子の折りに入っている。
これも うちの母もやったかも知れない
生の椎茸ならそこそこ重みもあるのですが 多分これは干し椎茸でしょう
母は私に 職場の上司の人に ぜんまいの干したのを 持って行くように言いました。
それがね 干してあるから ほんの少しなんです。その縮れこまったちいさなものを
上司にさしだすとき ちょっといやでしたね。
この人のお母さんは それを菓子折りに入れた。いいですよね かっこうがつきますから。 またもや この小説を自分にひきつけて書いてしまいました。