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こころ 夏目漱石

「こころ」 夏目漱石 先生と私 つづき

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 先生の返事が来た時、私はちょっと驚かされた。ことにその内容が特別の用件を含んでいなかった時、驚かされた。先生はただ親切ずくで、返事を書いてくれたんだと私は思った。そう思うと、その簡単な一本の手紙が私にはたいそうなの喜びとなった。もっともこれは私が先生から受け取った第一の手紙に相違なかったが。
 第一というと私と先生のあいだに書信の往復がたびたびあったように思われるが、事実はけっしてそうでないことをちょっと断わっておきたい。私は先生の生前にたった二通の手紙しかもらっていない。その一通は今いう簡単な返書で、あとの一通は先生の死ぬまえ特に私あててで書いたたいへん長いものである。
 父は病気の性質として、運動を慎まなければならないので、床をあげてからも、ほとんど戸外(そと)へは出なかった。一度天気のごく穏やかな日の午後庭へおりたことがあるが、その時は万一を気づかって、私が引き添うようにそばについていた。私が心配して自分の肩へ手をかけさせようとしても、父は笑って応じなかった。 


文章はゆっくりと読んでみるものだと こうして打っていると 思うのです。そしていつも思うことなんですが こんなに自然な文字の流れを 自分なんかが 書けるだろうかと。読む側と 書く側は違うのだなあと思う一瞬です。読む側としては 突出した所があるようには見えないのですが 父と子の雰囲気が 出ていて それでも熱いという感じにはならないというか。
《 2019.02.27 Wed  _  読書の時間 》