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こころ 夏目漱石

「心」夏目漱石 先生と私 つづき

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 父の病気は思ったほど悪くはなかった。それでも着いた時は床の上にあぐらをかいて、「みんなが心配するから、まあ我慢してこうじっとしている。なにもう起きてもいいのさ」と言った。しかしその翌日から母が止めるのも聞かずに、とうとう床をあげさせてしまった。母は不承不承に太織の蒲団を畳みながら「お父さんはお前が帰って来たので、急に気が強くおなりなんだよ」と言った。私には父の挙動がさして虚勢を張っているようにも思えなかった。
 私の兄はある職を帯びて遠い九州にいた。これは万一の事がある場合でなければ、容易に父母の(ちちはは)顔を見る自由のきかない男であった。妹は他国へ嫁いだ。これも急場の間に合うように、おいそれと呼び寄せられる女ではなかった。兄妹三人のうちで、いちばん便利なのはやはり書生をしている私だけであった。その私が母の言いつけどうり学校の課業をほうり出して、休みまえに帰って来たということが、父には大きな満足であった。
 「これしきの病気に学校を休ませては気の毒だ。お母さんがあまりぎょうさんな手紙を書くものだからいけない」
 父は口ではこう言った。こう言ったばかりでなく、今まで敷いていた床を上げさせて、
いつものような元気を示した。
 「あんまり軽はずみをしてまたぶりかえすといけませんよ」
 私のこの注意を父は愉快そうに、しかしきわめて軽く受けた。
 「なに大丈夫、これでいつものように用心さえしていれば」
 じっさい父は大丈夫らしかった。家の中を自由に往来して、息も切れなければ、眩暈も感じなかった。ただ顔色だけはふつうの人よりもたいへん悪かったが、これはまた今始まった症状でもないので、私たちは格別それを気にとめなかった。


私が想像できるのは ここぐらいですかね。次に何が起こるのか。でも次の時を待ちましょう。
偶然や何気なく進んで行っていることが まるでしくまれたことのように 振り返ってみると 起きていることがありませんか

《 2019.02.22 Fri  _  読書の時間 》