NEKO美術館 成瀬憲子

２０１１（６２）

こうこつのひと

漢字で書くと「恍惚の人」不思議な漢字

６２歳の私はこの映画をDVDで見たのか、テレビで見たのか

おぼえていない

ー夫は高峰秀子のファンです　　残念なことに最近亡くなりました

有吉佐和子の原作で　この言葉は　よく聞くことになった

４０年ほど前　この映画ができたころは　まだまだそう言う言葉は

なかったらしい

森繁久彌がその老人の役

ご飯を食べたことも忘れ　なべをかかえて食べているような老人

息子のことも娘のことも忘れてしまっている

映画を見ているうちに　「えっ　うちの夫だって　こんなになるんかいな

自分だって　庭でころんで頭を強か打ったついでに　恍惚の人になるんかも」

見ているうちに　いやになって　恍惚の人は途中でやめにした

夫は映画熟年（どんなんや）だから　映画は映画として見ている

「あみもんをしながら　映画を見るな」とどなっています

＊

私は今　６９歳です

どこから　自分はねじのゆるみを　むかえるんでしょう

それは今までのように　緊張でトイレに走る　というようなものではなく　べつの入り口かもしれませんよ　子供のころから　さんざん　緊張してきたんだから　それは今後役に立つかな　とか

期待しても　肩すかしをくらうかも　よくある話ですよね

しかし　あれですね　あれこれ考えても　いままでやってきたことが

できているかな　たとえばですね　あさ　私は　いくらはやく　目が覚めても

洗濯機をまわしにいくんです　そのついでに　顔を洗います

それから　もういちどふとんにもぐります　あまりに寒いのでふかく　ふかく　深海魚のように

７時過ぎに　起きます　顔は潜る前に洗っていましたね　忘れないでね　

パジャマから服に着替えるわけなんですけれども

この寒い季節　着替えるものは　足もとも　セーターも　順番がすばやくないと

む寒いのなんのって　ここには暖房はありません

これは　武士が戦場に向かうときの　下ごしらえに似ています

そんな偉いもんかいな　と思われるでしょうか　たしかに

　ただ　おなじことを　順番にできるか　できないか

これが　頭のバロメートル（しゃれてるつもり）

次に　髪をとくのも　まるでお茶席のように　順番があるんです

髪は　おちるものですから（すくないほうがいいですね）　ひざ　かた　くしの

手前にはんかちをおく　これが　できているかな　バロメートル

顔を　いじるときにも　何段階かあります

もう　いい？