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こころ 夏目漱石

「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき

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 私は私の捉まえた事実の許すかぎり、奥さんを慰めようとした。奥さんも私によって慰められたそうに見えた。それで二人は同じ問題をいつまでも話し合った。けれども私はもともと事の大根(おおね)をつかんでいなかった。奥さんの不安もじつはそこに漂う薄い雲に似た疑惑から出て来ていた。事件の真相になると、奥さん自身にも多くは知れていなかった。知れているところでもすっかり私に話すことができなかった。したがって慰める私も、慰められる奥さんも、ともに波に浮いて、ゆらゆらしていた。ゆらゆらしながら、奥さんはどこまでも手を出して、おぼつかない私の判断にすがりつこうとした。
 十時ごろになって先生の靴の音が玄関に聞こえた時、奥さんは急に今までのすべてを忘れたように、前にすわっている私をそっちのけにして立ち上がった。そうして格子をあける先生をほとんど出会いがしらに迎えた。私はとり残されながら、あとから奥さんについて行った。下女だけは仮寝(うたたね)をしていたとみえて、ついに出て来なかった。


 「奥さんは急に今までのすべてを忘れたように、前にすわっている私をそっちのけにして立ち上がった。そうして格子をあける先生をほとんど出会いがしらに迎えた。私はとり残されながら、あとから奥さんについて行った。下女だけは仮寝をしていたとみえて、ついに出て来なかった」
ここの場面は この時代の読み物なら笑う所じゃないんでしょうけど 笑ってしまう私です。下女が仮寝をするくらい ああでもないこうでもないと二人は話していたのに 先生が帰って来た途端 場面は一変します


《 2019.02.13 Wed  _  読書の時間 》