「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき
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私はまだそのあとに言うべきことをもっていた。けれども奥さんからいたずらに議論をしかける男のように取られては困ると思って遠慮した。奥さんは飲み干した紅茶茶碗の底をのぞいて黙っている私をそらさないように、「もう一杯あげましょうか」と聞いた。私はすぐ茶碗を
「いくつ?一つ?二っつ?」
妙なもので角砂糖をつまみ上げた奥さんは、私の顔を見て、茶碗の中へ入れる砂糖の数を聞いた。奥さんの態度は私に媚びるというほどではなかったけれども、さっきの強い言葉をつとめて打ち消そうとする愛嬌にみちていた。
私は黙って茶を飲んだ。飲んでしまっても黙っていた。
「あなたたいへん黙り込んじまったのね」
「何か言うとまた議論をしかけるなんて、しかりつけられそうですから」と私は答えた。
「まさか」と奥さんが再び言った。
二人はそれを緒口(いとぐち)にまた話を始めた。そうしてまた二人に共通な興味のある先生を問題にした。
*
紅茶一杯で こんなに文を書けるなんて
話はかわりますが こんなにはやくかわっていいもんでしょうかね
私は この人と 奥さんが 先生の事で 話していますね
「先生というのは どういう人なんだろう」というのでね ここまで じゅうぶん
話はこの小説のことですよね
ここからですよ
われわれは 「かわった人」とか「ふつうの人」などとよく言いますが
なにをもとに こういうことを言うのでしょうね
お客さん どーです?
次の時まで この事を忘れていなかったら そしてこういう事に興味が残っていましたら
自分を軸にして 考えてみたいものだと