「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき
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年の若い私はややともするといちずになりやすかった。少なくとも先生の目にはそう映っていたらしい。私には学校の講義よりも先生の談話のほうが有益なのであった。教授の意見よりも先生の思想のほうがありがたいのであった。とどのつまりをいえば、教壇に立って私を指導してくれる偉い人々よりも、ただ独りを守って多くを語らない先生のほうが偉くみえたのであった。
「あんまりのぼせちゃいけません」と先生が言った。
「覚めた結果としてそう思うんです」と答えた時の私には十分の自信があった。その自信を先生はうけがってくれなかった。
「あなたは熱に浮かされているのです。熱がさめるといやになります。私は今のあなたからそれほど思われるのを、苦しく感じています。しかしこれからさきのあなたに起こるべき変化を予想してみると、なお苦しくなります」
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先生 どうしたのだ
ま 先生のことをとても偉いと思いつづけている 私
「私はあなたからそれほど思われるのを、苦しく感じています」 と先生
どうなるのかな