who am ?I

PAGE TOP

  • 12
  • 30

こころ 夏目漱石

「こころ」夏目漱石 つづき


 「お前はきらいだからさ。しかしたまに飲むといいよ。いい気持ちになるよ」
 「ちっともならないわ。苦しいぎりで。でもあなたはたいへん御愉快そうね。少し御酒を召しあがると」
 「時によるとたいへん愉快になる。しかしいつでもというわけにはいかない」
 「今夜はいかがです」
 「今夜はいい心持ちだね」
 「これから毎晩少しずつ召しあがるとよござんすよ」
 「そうはいかない」
 「召しあがってくださいよ。そうほうが寂しくなくていいから」
 先生の宅は夫婦と下女だけであった。行くたびにたいていはひそりとしていた。高い笑い声などの聞こえるためしはまるでなかった。ある時は家の中にいるものは先生と私だけのような気がした。
 「子供でもあるといいんですがね」と奥さんは私の方を向いて言った。私は「そうですな」と答えた。しかし私の心にはなんの同情も起こらなかった。子供を持ったことのないその時の私は、子供をただうるさいもののように考えていた。
 「一人もらってやろうか」と先生が言った。
 「もらいっ子じゃ、ねえあなた」と奥さんはまた私の方を向いた。
 「子供はいつまでたったってできっこないよ」先生が言った。
 奥さんは黙っていた。「なぜです」と私が代りに聞いた時先生は「天罰だからさ」と言って高く笑った。


天罰だからさ
おやおや これはどういうことになってきたんでしょう

《 2018.12.30 Sun  _  読書の時間 》