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こころ 夏目漱石

「こころ」夏目漱石 つづき


 私はたんに好奇心のために、並んで浜辺をおりて行く二人の後姿を見守っていた。すると彼らはまっすぐに波の中に足を踏み込んだ。そうして遠浅の磯近くにわいわい騒いでいる多人数の間を通り抜けて、比較的広々した所へ来ると、二人とも泳ぎだした。彼らの頭が小さく見えるまで沖の方へ向いて行った。それから引き返してまた一直線に浜辺までもどってきた。掛茶屋へ帰ると、井戸の水も浴びずに、すぐからだをふいて着物を着て、さっさとどこへか行ってしまった。
 彼らの出て行ったあと、私はやはりもとの床机に腰をおろして煙草を吹かしていた。その時私はぽかんとしながら先生のことを考えた。どうもどこかで見たことのある顔にように思われてならなかった。しかしどうしても、いつどこで会った人か思い出せずにしまった。
 その時の私は屈託がないというよりむしろ無聊(ぶりょう)に苦しんでいた。それであくる日もまた先生に会った時刻をみはからって、わざわざ掛茶屋まで出かけてみた。すると西洋人は来ないで先生一人麦藁帽をかぶってやって来た。先生は眼鏡をとって台の上に置いて、すぐ手拭で頭を包んで、すたすた浜をおりて行った。先生がきのうのように騒がしい浴客の中を通り抜けて、一人で泳ぎだした時、私は急にそのあとが追いかけたくなった。私は浅い水を頭の上まではねかして相当の深さの所まで来て、そこから先生を目標に抜出(ぬけてでること)を切った。すると先生はきのうと違って、一種の弧線を描いて、妙な方向から岸の方へ帰りはじめた。それで私の目的はついに達せられなかった。私が陸へ上がって雫のたれる手を振りながら掛茶屋にはいると、先生はちゃんと着物を着て入れ違いに外へ出て行った。


この先生は 不思議ですね。まるで 「私」のことがわかっているようじゃありませんか
それぐらいしか いえません のりぞー

《 2018.12.13 Thu  _  読書の時間 》