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こころ 夏目漱石

「こころ」 夏目漱石 角川文庫 昭和26年 
はじまりはじまり 上

 
 私はその人を常に先生と呼んでいた。
だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間をはばかるという
遠慮というよりも、そのほうが私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起こすごとに、すぐ「先生」と言いたくなる。筆を執っても心持ちは同じことである。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。
 私が先生と知り合いになったのは鎌倉である。その時私はまだ若々しい書生であった。暑中休暇を利用して海水浴に行った友だちからぜひ来いというはがきを受け取ったので、私は多少の金をくめんして、出かけることにした。私は金のくめんに二、三日を費やした。ところが私が鎌倉に着いて三日とたたないうちに、私を呼び寄せた友だちは、急に国もとから帰れという電報を受け取った。電報には母が病気だからと断ってあったけれども友だちはそれを信じなかった。友だちはかねてから国もとにいる親たちにすすまない結婚をしいられていた。彼は現在の習慣からいうと結婚するにはあまり年が若すぎた。それに肝心の当人が気にいらなかった。それで夏休みに当然帰るべきところを、わざと避けて東京の近くで遊んでいたのである。彼は電報を私に見せてどうしようと相談をした。私にはどうしていいかわからなかった。けれどもじっさい彼の母が病気であるとすれば彼はもとより帰るべきはずであった。それで彼はとうとう帰ることになった。せっかく来た私は一人取り残された。


夏目漱石 「こころ」
私は 名作といわれているこの本を 読んでいませんでした
で 読みはじめました

《 2018.12.10 Mon  _  読書の時間 》