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大きい荷物 吉行淳之介

「大きい荷物」吉行淳之介 つづき


 あちこち開いているうちに、
『病院の廊下の長い椅子。
 右上で同質の声』
 という二行があった。
 これは、はっきりしている。病院の廊下のベンチに座って、診察の順番がくるのを待っていた。こういうときは、本を読んでる(呼んでるとあるけど)か項垂(うなだ)れるかしている。 
 斜め右上あたりで、会話の声が聞こえてきた。その片方の人物の声が、あきらかに私と同じ質の声である。つまり、小説家の声であるが、聞き覚えのある声ではない。頭を上げて確かめると、先輩作家が医師と立ばなしをしていた。面識がある程度なので、また下を向いてしまってそのままになった。
 十年余り前のことか、とおもったが、そのメモは万年筆で記してある、二十年くらい前、ということになる。
『指環 
 片腕のタダレ』という二行もある。
 万年筆とその書体から見て、この手帖を買って間もない時期、三十年近く前のメモである。これもすぐに分った。三十年前のことでもあり、現在のことでもあるためだろう。
 医学書の翻訳を見付けて、メモしたものとおもえる。


『面識がある程度なので、また下を向いてしまってそのままになった』
『右上で同質の声』

小説とか 詩 とか私たちは 区別していると思うんだけど
私には この人の ここらへんは 詩に 思えます
三十年前を 言葉の片鱗から しゅっと つりあげるなんて 
それは 長い文であったりではなく 短い言葉
そして それは はっきりしたものであったり 今もそうであったり
そのてがかりのところは 詩
そのあいだに 文

なんちゃって のりぞー


《 2018.12.08 Sat  _  読書の時間 》