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大きい荷物 吉行淳之介

大きい荷物 吉行淳之介

 理髪店を出て、階段の下まで行って、おもわず立止まった。
「これを昇るのか」
 と、ためらう。
 大部分の人にとっては、ためらうことではない。なんとなく、あたりを見まわす。そして、間口のひどく狭い文房具店の前に立っているのに気付いた。
「そうだ、久しぶりにメモ帖を買ってみるか」
 一冊目を買ってから、三十年ほど経っている。向き変えて店の中に入ると、間口の割に奥が深い。
 中年の女性が私を見て、
「おや、お久しぶり」
 と、言った。
 たまにしか寄らないが、馴染みの店である。名刺が切れると、この店に
頼む。封書や葉書に捺すゴム印で、住所だけのものも幾つもつくってもらっている。
 ゴム印といえば、三十五年ほど前のことをおもい出す。肺結核になって、清瀬の病院で手術することになった。木造の広大な建物で、その二十五人部屋に入れられた。
『東京都北多摩郡清瀬村
 国立療養所清瀬病院十三病棟』
 手紙や葉書を書くたびに、その字画の多さにうんざりしたり呆れたりした。近くの文房具店に行き、その住所印を作った。部屋の隅にある机の上に置くと、すこぶる好評だった。
それで、皆うんざりしていたことが分った....。
「メモ帖はありますか」
「どんなものがいいのでしょう」
「年末にあちこちで呉れるでしょう、ポケットに入る日記帖みたいな。あの二倍くらいの大きさで、縦長のがいいな」
 店の女性は棚を探して、黒い革製の手帖を取り出した。
「もっと厚いほうがいいかしら」
「これでいい、それにボールペンを一本」

***

清瀬村というところがあるのかな。それともあったのかな。
息子がそのような名前のところに住んでいるから 親しみをもったんですが北多摩郡ではないので しかし郡も今頃は少なくなっているから さてわかりません。
住所印の話が出ていましたね。 
やはり 年賀状など 長い住所だと ハンコだと便利だと思います。さらに便利な方法ができているはずですが
この作家は 日常ではあるけれども 自分が最小限度必要なことだけを
書いているから あっさりだなと 思ったりしてね
そうだ リアリストじゃないんや
などと 自分は わけのわからんことを呟きながら

話は変わりますが
今日の風は 冬風と秋風が衝突していますね
ということは やっぱり 冬は来るのかー

11月29日の朝日新聞 樹木希林さんの話のところで
「うらを見せおもてを見せてちるもみぢ」良寛
これについて
「裏から始まるところがすごい。年や経験を重ねても、人間は表裏を持ちつづけているという本質を見抜いた人の句ね。こうありたい」
いえね お客さん この言葉にぴんときたわけじゃないんです
北風の音と こういう言葉が 人をさびしくさせたりして これから
冬本番 ちょっとおかしいか

吉行淳之介の「大きい荷物」の話に戻りますが 
メモ帖とかボールペンという言葉だって 何か全盛期はすぎて
ここには「ある」 今 そんな気分にさせる季節ではありませんか
 これらの言葉たちが醸し出す 「もの」

みをぎさんの毛筆を思い出したなあ


《 2018.12.01 Sat  _  読書の時間 》