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詩を読む

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九月の朝顔 畑尾和美 2011 ブックロア

この本は ながいこと アトリエにありました
こういうことはよくあるんです
で なぜか 手に取って 一気読みってことも
細胞は 何年かして 別人のように変わるそうでしたよね
だから 手に取ったわたしは 一冊読んでしまうなんて
別人

この人の1ページを 打ってみることに 
そのページに人差し指 他3本の指が 入ったからです

じょろた

父から電話
母はニヤリと笑いながらこっちを見る
「お父さんが、カズミに見せたいもんがあんねんて」
なんのことか言いたくてしょうがない母の顔
しばらく黙っていたんやけど
ちょっと我慢した分、興奮しながら
見せたいというもののことを話しはじめる
「じょろたがな......」
"じょろた"というのは和歌山弁らしい
黄色と黒の縞模様のあるジョロ蜘蛛のこと
「じょろたが工場にいてな、卵を産んでん
カズミ好きそうやし、早く見せたいって」
それを聞いて複雑に思う
私は蜘蛛が好きやったんやろうか
何はともあれ
父が見せたいって言うんやから、急いで見に行くことにする
家の工場の駐車場の樫の木の上の方
親指ほどのジョロ蜘蛛が
まさに巣をつくっている真っ最中
透明のような、白いような、強そうやけど
ふうって風が吹いたら、今にも切れそうな細い糸
おしりからつうって出して
後ろの方の右と左の手か足かつかって、うまいこと形をつくる
気持ち悪いなあと最初は思ったんやけど
じっと見ていたら、父の気持ちもわかってきた
私もじょろたに夢中になる
だんだん、頭を上げて見ているのがしんどくなって
脚立にすわって間近で観察
背中には父
その横に母
父はじょろたの行動をくわしく説明する
母はじょろたの餌になる虫を探している
工場の中でひとり機械を動かす兄
「ちゃんと長さを測りながら形をつくるんや
最後にまん中に戻って、自分のマークのような印を入れるんや
ほら、見てみ。刺繍みたいなん入れたやろ」
自分がつくったかのように満足顔の父
そのうち
巣に小さいカナブンが引っかかる
美しい形の巣づくりは、生きていくためのもの
父と娘は、つづいて蜘蛛の食事を観察しはじめる
母は家族のご飯をつくりに家に戻る
兄は「まだ見てんのか」とあきれ顔
ひとりで暮らして四年とちょっと
家に帰るっていうたら祖母の法事ぐらい
初盆を終えて、ほおっとして
家族と過ごす久々の時間
言葉は少なくても
父の子供やなあって、つくづく思う
じょろたは、そんなことも気にせんと
白い糸でくるくるカナブンを巻きこんでいる
生きるためにどこまでも美しい
さっき産んだ卵のためにも
じょろたはしっかり生きている

《 2018.09.01 Sat  _  1ぺーじ 》