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かめ
「かめ」NEKO美術館発 ２００８
かめをかかえている男に出会いました。
どこといって どうってことない その男ですが
かめをかかえているとなると 気にもなります。
その男の後をつけてみました。
どうやら妻子がいるようです。
かかえているのは 大きなかめです。
そうそう こうらのある あのかめです。
３つと５つの男の子と７つの女の子
１５の男の子と１２の女の子がいて この子たちの兄と姉
５人兄弟です。
そのなかの 小さな男の子２人が
かめをそっとさわったかとおもうと 転がしたりして遊んでいます。
母親はおおきなたらいに 水を入れています。
かめには 水が必要だと考えたからでしょうか。
空が たらいの水に うつっています。
母親はこのかめに 歌をうたってやろうと思いました。
いつもこどもたちにうたっているかめの歌です。
「もしもしかめよかめさんよ
せかいのうちで おまえほど あゆみののろい ものはない
どうしてそんなにのろいのか」
かめはたらいのはしに手をかけて あたまをすっこめたり だしたりしています。
夕方になると 男は妻にいいました。
「そのかめ 池にかえしてくるわ」
ちょっと驚いたのは子供たちと妻です。
男はいいます
「このかめは 道で車にひかれそうだったからな
それと そばを歩いていた人が かめをかうといいことがあるかも
そういったからな」
この家族は 男は サラリーマンをやめて きゅうに絵描きになったのですから
毎日 貯金を切り崩して 近所の野菜を分けてもらったり
市場で 見切り品を調達して来たりして
やっとこさ 食いつないでいるといったあんばいです。
「かめをかうといいことがあるかも」と人がいったのを
ふつうはわらって「ほんとかな？」と思うものですが
すっかりその気になったのです。
しかし やっぱり 自分の家に帰りたいだろうと
妻や子供も池で待ってるかも知れないと
思ったのでしょうか
こういうのをほとけごころと いうんでしたか？
妻はかめにかめの歌をうたってやったので
名残惜しいと思いました。子供たちも いっぱいかめとあそんだので
やっぱり名残惜しいと思いました。
そういうわけで この家族は近くの池に かめをかえしに行くことになりました。
男は池にかめをほうりなげるのも どうかな
ちょっと土手においたままだと また道に迷い出るかもしれないと
迷いました。
さんざん 家族で迷ったのですが 草むらに置いてきました。
それから２０年近く
子供たちも大きくなりました。
男ですか？
あいかわらず絵描きをしています。
あゆみののろい 絵描きを ようやく脱出して
ええ ええ かめをひろってよかった。
《 2017.11.22 Wed _ ペラ本 》