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猫たちの隠された生活

「猫たちの隠された生活」エリザベス・M・トーマス

カラハリのライオン つづき

ライオンがほかの生物にむかって吼えるのは、狩猟がしやすいように脅して彼らを暴走させるためという説もある。その夜は、この説も通用しないと思われた。こともあろうにライオンの挑発にのって、火や武器を捨て闇の中に散らばる愚かな人間など、自然の法則がとっくに淘汰していただろう。西洋の人間でさえ、こうした状況のもとで暴走するとはかぎらない。なすべきこと、向かうべき方向も考えられないまま、ひたすら恐怖にかられて立ちすくむだけになる。このときのわたしが、そうだった。ジュ・ワ族といえば、もちろん雌ライオンに気づいたが、わたしのようにすくみあがることはなかった。平然としか警戒は怠らず、成り行きを見守っていた。いずれにしても、だれ一人なんの手だしもできなかった。さしものジュ・ワの凛とした話しかけにも、この雌ライオンは応ずる気はまったくなさそうだった。その夜彼らは一度も話しかけたりせず、賢明に沈黙を守った。わたしは雌ライオンがそこにいた長さを知るのがとても重要なことに思えたので、時計で時間を測った。彼女はおよそ三十五分間、間を置きながら吼えた。そしてふいにせかされたように、足早に去って行った。それで終わりだった。彼女は少なくとも目につくかたちでは、
二度ともどらなかった。そして彼女がその夜何を訴えたかったのか、だれにもわからなかった。

***

この三十五分間の咆哮 なんだったんでしょうね。知りたいなあ。わたしは愚かな人間だからね。
《 2017.10.19 Thu  _  1ぺーじ 》