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猫たちの隠された生活

「猫たちの隠された生活」エリザベス・M ・トーマス

カラハリのライオン つづき

 しかしわたしが経験した猫のコミュニケーションにかんする逸話で、なんと言っても迫力があったのは、雨期の間のガウチャでのこと。ある蒸し暑い月のない晩に、一頭のライオンがキャンプにやってきた。わたしの身内とジュ・ワの人たちは、べつの場所にいた。
たまたまキャンプにはわたししかおらず、母も弟も三十メートル離れたジュ・ワのキャンプを訪れていた。わたしはランプの明かりの下で記録をつけていた。ジュ・ワのキャンプでは、小さな焚き火が六つ燃えていた。わたしたちはそこですでに一年近く暮らしていたから、新顔というわけではけっしてなかった。
 その夜10時ごろ、二つのキャンプの中間に突然一頭の雌ライオンがあらわれて、吼えはじめた。ライオンの吼え声のすさまじさは筆舌につくしがたく、体験した者でなければ想像もできまい。体じゅうにその声が響き渡り、わたしは考えることも息をすることもできず、咆哮(ほえること)のあいまに一瞬の静寂が訪れると、耳ががんがん鳴った。地面もテンとの幕も揺れているようだった。全身が総毛だち、完全に動転しながら、わたしはなんとか冷静になろうとした。わたしたちがいまいるところ以上に安全な場所はない_このテントはいかにもへなへなだけれど、少なくともむきだしではないし、ほかの人たちはみな火のそばにいる。木に登るというのは問題外だった_雌ライオンが後脚で立って手をのばしてもとどかないほど、枝の高い木はない。考えたあげく、ふるえる手でランプをテントの外に出すことにした。そうすれば光がテントの中からもれるのではなく、てんとを外から照らすようになるから、薄っぺらい素材を少しは頑丈なものに見せ、中でわなわなふるえているわたしの姿が影絵のように透けて見えることもないだろう。そうすることで、ほかの人たちに雌ライオンの位置がはっきり見えるのではないかとも考えた。吼え声があまりに深くて大きいため、方向がつかめなくなるのだ。彼女の咆哮から判断しようとすると、まわりじゅうにいると思えてくる_どこにも、かしこにも。
 彼女はジュ・ワのキャンプになにか用があるらしく、そちらの方向を見つめていた。ランプの光は気にとめていないようだった。耳は立てぎみに両側に開き、尻尾を何度も大きくはげしく振り、腹を立ていらいらしているようだった。もうこれ以上がまんできない、と言いたげに。ときどき彼女は行きつもどりつを繰り返し、一度はひらりとランプの明かりの外に飛び、またひらりと飛んでもどってきた。

***

エリザベスが一人テントにいるときに 雌ライオンの咆哮をきく。
そのライオンはジュ・ワのキャンプになにか用があるらしく、そちらの方向を見つめていた。ライオンの吼え声のすさまじさは筆舌につくしがたいと言っていますね。体じゅうにその声が響き渡り、考えることも息をすることもできず、咆哮のあいまに一瞬の静寂が訪れると、耳はがんがん鳴った。地面もテントの幕も揺れているようだった。全身が総毛だち、完全に動転しながら、わたしはなんとか冷静になろうとした。わたしたちがいまいるところ以上に安全な場所はない。

いろいろ考えたけれども 彼女がやったことはランプをテントの外に出すことだった。
そうすれば光がテントの中からもれるのではなく、テントを外から照らすようになるから、薄っぺらい素材を少しは頑丈なものに見せ、中でわなわなふるえているわたしの姿が影絵のように透けて見えることもないだろう。

恐怖の中で これだけのことをよく考えましたね。
《 2017.10.18 Wed  _  1ぺーじ 》