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現住所は空の下

現住所は空の下 高木護 1989 未来社

木のことば

 木のなまえを並べ立てても、おそらく百種類も知らないだろう。だけど、木といわれたら「木」だなと想像がつく。あとは大きいか小さいか、高いか低いか、つまり喬木(きょうぼく)か灌木か、枝が多いか、葉っぱが大きいか小さいか、どんな形をしているか、花が咲くか咲かないか、実がなるかならないか、落ち葉するかしないか、群生してるかどうかといったくらいで、木といわれたら、木だなと理解できるだろう。
 しかし人間といわれても、どんな人間なのかわからない。男か女か、子供かおとなか、若いか老人か、器量がいいか悪いか、善人か悪人か、うまれや育ちがいいか悪いか、才能があるかないか、好運か不運か、有名か無名か、どこの国の人なのかをいわれても、なまえをいわれても、出合ったことがなければ、どのような人間か見当がつかないだろう。
 その点だけにしても、木はりっぱなものだということに気がついた。木が単純で、人間が複雑だからではあるまい。だれがみても、木たちは素朴といえるが、人間たちは怪奇である。
 森があり、入り口に石仏が三つ四つころがっていた。首のないものもあったが、仏は仏である。わたしはころがっている仏を起こして、一体ずつ拝んだ。
「せっかく寝とりなはったかもしれんですが、なんかよかこつがありますように」「うまかもんにありつきますように」「景色のよかとこが見つかりますように」「よか人たちと
出合いますように」「あした、よか天気でありますように」「そりから、アクシデントに遭いまっせんように」
拝むのも一つの石仏に五つか六つずつぺこぺこしたので、お願いごともたくさんした。
「あのですたい、ばそろいましたが、どうか欲たれと思わんでくだはり。そりから、いの ちもほしかとじゃなかとですけん」
といういいわけもした。
 拝みおわって、顔を上げたら、石仏の傍らに一本の小さな木が立っていた。高さも一メートルあるなしで、幹の太さも五円玉くらいであった。五、六枚ついている葉っぱは厚くて光沢があり、やや長目の楕円形で、耳のように見えた。そこは森の陰っぺらになるところなのに。ひょろりとした感じはなく、堂々としてるとはいえなくとも、悠々とした気構えを持っているように見受けられた。
 なんという木だろう。気になった。立ったままでは小さな木を見下げることになっては悪いから、わたしはあぐらをかいた。木と差し向かいになったので、
「お邪魔ばするばいた」
 木にまず断った。
「ああたと話ばしてみたかったい」
「そうかいの」
「二、三訊いてもよかかいた」
「おらにかい。あんたも物好きじゃの」
 小さな木にしてはしゃがれ声をしていた。
「ああたはまだ子供の木かいた」
「こまかけん、おらが子供の木に見えるとかいの」
「わからんから、訊きよるとですたい」
「おらの、ここに二十年以上もおるとじゃ。太うはならんがの、これでも一本の木のつも りじゃ。木には見えんかいの」
「見えるですたい。りっぱな木に見えるですたい」
「嘘ばつかんでもよかぞい。おまえさんも、人間じゃろうが。人間はの、なんでも比べた がる。こまかっと太かっと比べたら、どぎゃんこつになるかの、わかっとろうが。太かっでもこまかっでも、木は木じゃ。おらのようなこまかっでも、一本の木に見えりゃ、それで十分じゃの」
「そぎゃんですたい」
 当たり前のことかもしれなかったが、わたしは一本の木に教えられたような気がした。人間としてうまれてきたからには、人間はどこまで行っても人間であり、人間以外の何ものでもないだろう。木も木としてうまれてきたからには、大木になろうが小木のままだろうが、木は木であろう。こんな当たり前のことを人間は忘れがちになるようだった。
「おらのなまえが気になるかいの」
「なるですたい」
「おらの、これでもモチの木じゃ」
と、木はいった。

***

文字を打たしてもらう時は 打つことで もう一回読み直して 間違いがあれば 直します。 間違いがあると 見直したかいがあったと思います。というのも わたしは「間違えてはいないやろ」とわたしらしくたかをくくっていることがあるからです。

高木さんのこの木とのおしゃべりは 「こんな当たり前のことを人間は忘れがちになるようだった」のことばどうり わたしも忘れがちです。

で わたしは小さいですが 人間です。67年生きていますが 思うように背は伸びませんでした。女です。それから年取っています。器量は ふむ 育ちは ふむ 善人か ふむ 才能は ふむ 好運か ふむ 有名か ふむ 日本人 

これだけのことを確かめないとどのような人間か見当がつかない?

この二十年以上もいるモチの木は 一本の木
そうですねといいかけて わたしも一人の人間ですたい とその「ふむ」をおしのけて
木となら 会話できるかもしれません。人間同士が話をしようとすると そうはいかないですよね

さいならさいなら
《 2016.05.23 Mon  _  1ぺーじ 》