玉虫 1987 NEKO美術館発
あんなに 飛ぶ虫を おっかけたことは その後
一回もない
それはうわさの 玉虫だったからだと 思う
玉虫厨子というのは この虫の羽根をいっぱい集めて
できあがったものなんだろうか
わたしは いくつぐらいのとき われをわすれて
この虫のあとを おっかけたのだろう
そして わたしは 玉虫を つかまえた
どきどきした
そして 箱の中に とじこめた
そのことを わすれてしまったのか
あけてみるのが こわかったのか
ある日 箱をあけてみると
たまむしは ベージュ色のクリームみたいなものを
おしりからだして 死んでいた
67歳のわたしは この玉虫のことを
ひどいことをしてしまった と考える
この虫を捕まえることは そんなに全速力で
走ることだったの?
そのことが おどろき
箱をあけたときの おどろきは すてることにつながって
そのあいだには 空洞のようなもの あるんだけど
このことが 人生のかたちと 似ていると思うのは
67歳のせいかな
歳のせいにしたらあかんで こう言ってたしなめる人
いるんよ