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現住所は空の下

『現住所は空の下』高木護著 1989です。

小魚 

 マドロスさんに憧れたことがある。
 昭和18年の秋だった。無線学校に入学して、通信士の資格を取ってから、船にのりたいと思った。当時入学できそうな学校といえば、東京の江古田にあった私立の中の無線学校か、官立の無線学校しかなかったので、無試験の中野のほうに入学手続きをとった。一年制だったか、二年制だったかは忘れたが、卒業すれば三級通信士の資格をもらえることになっていた。上京してみたら、中野無線学校は廃校になっていて、目黒のほうに推薦で入学できたのだが、官立というのに怖じ気づき、マドロスさんになる夢をあっさり捨てた。
 払い込んであった入学金などがそっくり反ってきたので、九州に帰る途中で下車をして、須磨の明石に四、五日遊んだ。あの遠浅の寄せては返す小波の美しい海を満喫させてもらった。それから、陸軍気象部の軍属となり、南方転属を命じられた。シンガポール郊外のカトンの町の薄暮前の黄金色の海や、駐屯していたシグラップの遠浅の薄紫色の海をしっかりと印象づけ、胸裡(きょうり)に仕舞い込んだ。
 わたしがぶらぶら歩いていると、それらの海が体の中で、小波を立てたり、揺れたりした。わたしを育ててくれた熊本県の山峡の村を吹く、四季折々の山風も吹いてきた。
 わたしはぶらぶら歩きながら、海だ、海だとつぶやいたり、風だ風だとつぶやいたりした。 やっと海辺に着き、海づたいの砂地をぶらぶら歩いていた。自生の蘇鉄の株も目についた。鹿児島県のなんとかという海岸にきているらしかった。人家もない人気もない、眺めのいいところを見つけたら、一服してもよかったり、食い物も五、六日分持っていたので、そこが気に入ったら、何日でも飽きるまで海と向かい合っていてもよかった。
 岩場に出た。その先は砂地になっていて、近くに真水もありそうであった。砂地の先に薮があり、小屋らしきものが見えた。
「ここに、きめたばい」
 岩場をのぞいたら、浅い水溜まりができていて、小魚が群れていた。何匹でも手摑みできそうだった。
「しめしめ、魚汁も食わるるたい」
 わたしは海に向かって、
「二、三日はおるつもりですけん、よろしゅう頼みますばい」
 挨拶をした。相手は海にしろ、仁義が大事というものである。
 わたしは岩場の一つの平たい石の上に坐り、海と向かい合った。
 お昼を過ぎていた。
 海は凪いでいた。(風や波がおさまる)昼下がりの海は薄青色に見え、たぷんたぷんという波音がした。夕方になるにつれ、海は薄青色から、青色になり、青が次第に薄くなって行った。
 そして、藍色になり、みどり色になり、水平線に太陽が沈み行く一時、だいだい色になり、黄金色になり、紅色になり、陽が没する一瞬、どす黒い血の色となり、彼方から昏れてきた。昼下がりからでも、海の色の変化はドラマチックであった。
 たぷんたぷんという波の音も、吹いてくる風にもよるのか、たっぷたっぷとなり、だぶんだぶんという音に変わってきた。夜はざぶんざぶんから、だだんだだんという波音になった。
 わたしは柱と破れ屋根だけの小屋にころがった。小魚入りのおいしい雑炊で、腹もふくれていたせいか、すっと眠りがやってきた。
 夜中、体を揺すられたようで、目が覚めた。だんだんという波音がしていた。風も出て、海が少し荒れているようである。「おい、おい!」という声もした。
「起こしたっは、ああたかいた」
「そうだよ」
「さっき、こまか魚ば三匹、もろうたですたい」
「わしらに、くだはりというて、あんたは魚をもろおたっだけん、許すとしよう。だがね、わしら海も生きもので、ことばもあるということを忘れんでくれな」
「忘れんごっするですたい」
「わしらの魚を獲っても、人間どもはくだはりどころか、ありがとうもいわん。途方もない大きな船で、わしらを掻きまわしても、断りもせん。だけん、わしら海が怒り出したく
なるとも、わかるじゃろうがな」
「はい、すみまっせん」
と、わたしはいうしかなかった。

***

私は 人差し指で たかぎさんのこの「小魚」という文を読ませてもらっています。でも指や腰が痛くなると 洗濯物を干しに行ったりします。打つのもそんなに早くないし あんまりすわりこんでいると 体と頭に悪いような気がするんです。
「二、三日はおるつもりですけん、よろしゅう頼みますばい」
海に向かって挨拶をするなんて いいですね。 お墓を通る時でも 林に入る時でも高木さんのように挨拶をして入ろうかな。

ーわたしは岩場の一つの平たい石の上に座り、海と向かい合った。ー
一人でこんなことする高木さんですが そこで海の色の変化を絵を見せてくれるように書いています。

ー昼下がりの海は薄青色に見え、たぷんたぷんという波音がした。夕方になるにつれ、海は薄青色から、青色になり、青がしだいに濃くなって行った。そして、藍色になり、陽が没する一瞬、どす黒い血の色となり、彼方から昏れてきた。昼下がりからでも、海の色の変化はドラマチックであった。ー

ーたぷんたぷんという波の音も、吹いてくる風にもよるのか、たっぷたっぷとなり、だぶんだぶんという音に変わってきた。夜はざぶんざぶんから、だだんだだんという波音になった。ー

昏れて行く変化 波の音の変化 こうしていつまでもごろんと横になって感じている 聞いている こんな経験 私はしたことはありません。
美保関のしいちゃんは海がすぐ傍だからふとんのなかで こんな音の変化を聞いていたり海の色の変化 見ているかもしれませんね。
このまえ おたよりをいただいたtaddoさんは 海とはどういう出会いをされたんでしょう。
たっぷんたっぷん この音は 聞いたことがあるような気がします。

さいならさいなら
《 2016.01.29 Fri  _  1ぺーじ 》