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正象先生

『現住所は空の下』高木護著 未来社 1989

一期一会 正象先生

 学歴といったら、小学校卒や中学校卒ではなしに、高校卒や大学卒を指しているようである。 わたしは自分の経歴に、「学歴なし」と書く。学歴がないことはないが、昔流にいえば、小学校尋常科六年を卒業して、町の乙種実業学校商業科三年を卒業しただけなので、これでは学歴といえるほどのものではないから、学歴なしと書いたとしても、いつわりにはならないだろうと思っている。
 学歴のことはどうでもいいが、昔の先生はおもしろいというか、お一人お一人が信念を持っておられた。つまり、どの先生もいい先生というか、りっぱであった。
 小学校でも、そんな先生たちと出合った。実業学校でも、そんな先生たちと出合った。
 実業学校には中原正象という先生がおられた。「公民」を教えられていたが、もう一人「数学」を教えられる同姓の先生がおられたので、公民の先生のほうを「正象先生」となまえでよんでいた。
「目をつぶりなさい」
 正象先生は授業のはじめにいわれることがあった。
「眠たか者は寝てもいいよ。先生の話を聞きたか者は目をあけて、聞きなさい」
 先生の声はやさしく、顔はいつもにこにこしていた。生徒たちの顔に一人ずつ目をやりながら、「勉強のきらいな者はね、勉強しないでもいいよ。でもな、そうしたら、成績が悪くなる。悪くなっても、へこたれんなら、それでいいのだよ」
 ええ?というようなことを、まずいわれた。
「先生も人間、きみたちも人間。人間なら、人間として、勉強や学問よりも、もっと大事なことが、うんとあるはずだよ」
 正象先生は黒板に、白いチョークで「人間」と書いて、赤いチョークで丸をつけられた。
「人間として、大事なことというと、なんだろうかね。わかった者は手を上げて....」
 先生はにこにこしながら、生徒たちを見渡された。だれも手を上げる者はいなかった。
「働くことだね。それから、銭を稼ぐことだね。それから食べることだね。それから、体を休め、寝ることだね」
 一言ずつ区切り、ゆっくりした調子で話をされた。
「といってもね、一人なら、一人分あればよかっ。銭も、食い物も、寝るところもな。
欲たれてはいかん。欲を出して、人の分まで盗ってはいかん。一人分なら、だれでも稼げるからね、どんな仕事でも、たのしく働けるはずだよ」
 先生は黒板にまた「一人分」と書かれた。
「一人なら、一人分でいい、よかということを覚えときなさい」

***

「働くことだね。それから、銭を稼ぐことだね。それから、食べることだね。それから、
体を休め、寝ることだね」
正象先生は なんと基本的なことを 生徒に教えてくれたことでしょうね。
「体を休め、寝ることだね」この言葉は好きですわ。
 高木さんはいい先生に出合いましたね。私もいい先生に出合いました。
「といってもね、一人なら、一人分あればよかっ。銭も、食い物も、寝るところもな。欲たれてもいかん。欲を出して、人の分まで盗ってはいかん。一人分なら、だれでも稼げるからね、どんな仕事でも、たのしく働けるはずだよ」
私はこのような 働くことがたのしくなるようなことを 学校で聞いたかなあ。親からも働かなあかんとは聞いていましたが。
正象という名前も好きです。正しいはともかくとして 象が私は好きなんです。この話にはあまり関係ないですね。
この先生の話を聞いていた生徒は 頭が整理されて すっきりしてたんとちゃうかなあと 思うんです。

さいならさいなら

《 2015.12.26 Sat  _  1ぺーじ 》