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『印象派時代』福島繁太郎著 光文社 昭和18年の続きです。


ロートレック

 そのほか浮世絵版画もロートレックの芸術の成立に、大きな影響を及ぼした。当時は古代の芸術の再認識や、遠い外国の芸術の研究が盛んな風潮であったが、浮世絵版画もパリで度々大展覧会が行われ、パリの人気をさらっていたのである。ロートレックもゴーグ(ゴッホ)などと共に浮世絵に血を湧かした一人である。
 彼は浮世絵の簡潔なる表現と色彩の単純化を学びとった。
 ロートレックはその芸術を確立しかけた頃(1885年頃)、居をモンマルトルに定めた。堅苦しい田舎貴族の家庭生活から、急に陽気なモンマルトルの空気に接して、彼は無上の気楽さを感じた。容貌こそ醜かったが伯爵の御曹司であり、金放れのよかった彼は、正に掃溜に下りた鶴であった。多くの取り巻きに取り巻かれ殿様然として爾来(それ以来)十五年、モンマルトルに根を生やしてしまった。 醜い容貌の気遅れを酒にまぎらし、縦横なる機智と辛辣な皮肉を持って、仲間を煙に巻いて生来の貴族主義を庶民のまっただ中にあって押し通した。
 ロートレックが人物画のみを好み、風景画や静物画には無関心と云うよりも嫌悪軽蔑の感情を抱いていた特異の画家であったことは前にも述べたが、彼は人物の性格描写に特に興味を持っていた。それゆえ彼が毎晩のように入り浸ったモンマルトルの寄席や酒場へ出入りする雑多な人物をモデルとして見逃すことはなかった。と云うのはそれらの人物は野卑ではあるが、その性格に極めて特徴あるものが多かったから、彼にはうってつけの主題であった。
 ロートレックは性格描写にかけて近代に於いて彼の右に出づるものはあるまいと思われるほどの優れた腕前の持ち主で、モンマルトルの人物の野卑な性格を赤裸々に描写して憚らなかった(遠慮することはなかった)。これが彼がモンマルトルの悪徳に対して道徳的に痛烈に批判しているかのごとき誤解した説を生んだのである。
 たとえばジェームス・ギボンス・ハネカーは「権力のあった彼は自分のみじめなモデルに対して、陰鬱な憎しみをもっていた。・・・寄生虫の巣くっているムーラン・ルージュ
のラ・グゥリュウと彼女の嫌らしい封間達。・・・野獣性は軽蔑すべきだと云って顔に一撃を食らわせたのだ(式場博士)としている。
 これらの論は式場博士も云われる如く、ロートレックをあまりに清教徒的な眼で眺め、彼の本質とは全く相容れない多くのものを想像しているのである。批評家はしばしば自分の空想に仕えて、当人の画家の考え及びもつかなかった事を想像しがちなものである。
ところが、ロートレックの制作した油絵、デッサン、石版画、ポスターを検討してみても、彼がそのモデルを憎んだり、あるいはモンマルトルの悪徳に対して十字軍運動を唱えたことは一つも見出せない。ロートレックは決して道徳の検察官としてモンマルトルに乗り込んでいったのではなかった。

***

ロートレックはモンマルトルの空気を 自分が育った田舎の貴族社会より「自由」だと感じていますね。それでも 田舎で料理を覚えていたり(本で読んだことがあります) これは人がいっしょになって飲んだり食べたりが出来ましたね。 お金だってある 彼の事を利用する取り巻きもいたかもしれないけれども いいやつも やさしい女もいた ということなんでしょうかね。むき出しのモンマルトルの空気は それがはっきりしてたのかもしれません。そのうち あまり丈夫ではない彼は 酒にやられていく。モンマルトルの空気でロートレックは寿命を縮めてしまったのかもしれませんが。  いやあやっぱりあの田舎でいるよりよかったと思いませんか? モンマルトルに足を踏み入れなかったら あの数々の作品は生まれてませんしね。 画家にとって嬉しい事は 描きたいものを 思い通りに描けることでしょう 一番は。 
この本は少々乱暴な書き方ですが なんか世の中の リアルな中に自分もいるようでつい 考えてしまいました。昔の著者は道徳的であり慎み深いものだと思っていましたが リアルですね。
またロートレックは誰よりも自由を求める理由のようなものがあった。その勢いはこの画家をして・・・どう表現したらぴったりかなあ わかりません。ロートレックはモンマルトルで生きてみることで いろんなことに出会ったに違いありませんよね。
しかしまた「道徳の検察官としてモンマルトルに乗り込んでいったのではなかった」というように 彼は誤解されているところもあったんですね。まわりにいる人たちがロートレックの事を語らない限り なかなかわからない事もあるのでしょうね。でも絵の中に ロートレックのまなざしが見えてきませんか?それをどうとらえるのか こんどは見る側の何かが問われてくるのですね。ロートレックはどんな人やったんやろ。

さいならさいなら


《 2015.06.11 Thu  _  ちまたの芸術論 》