NEKO美術館 成瀬憲子

「旅のはなし」

１０月に北海道に行ったので　それはシーズンオフの観光であり　寝台にねころんでの船旅だった。私は持ち物の中にメモ帖とボールペンを入れていた。朝の８時ごろからずっとそれで　ひたすら書きまくっていた。降りてからも食堂に入れば出てきた「ほっけ」を描く。木の葉をひろえばメモ帖にはさむ。たちまちのうちにメモ帖はふくらんだ。

　小樽だ。倉庫街にダリアが咲いている。ロシア人が何人か歩いていた。きっと長野県よりはロシアは近いのだ。夫はこの小樽港がニシン漁で栄えていた頃のはなしをする。かの石川啄木だって　この小樽にいたことがあるのだ。

札幌にも行った。ここにも中之島公園（大阪にもある中之島）がある。夫が映画を見に行っている間　そこであるかもしれないフリーマーケットに行こうとする私。なにせフリーマーケットが好きな人間なのだ。札幌駅からまよいつつ３０分ほどかけて歩く。しかしやってなかった。毎日やってるわけがないのに　行って確かめようとする。こんな経験ははじめてではない　しかし　なにもない広場はいつの時も　悲しい。

路地裏、市場、バス停などを歩く。メモ帖は絵とおばちゃんとの会話メモなどでうまっていく。リサイクルショップの場所やフリーマーケットの場所を聞いていくうちに　何人かの人と立ち話したというわけ。人情のありそうな人をさがしながら。長屋の裏のようなところで骨董品屋があった。薄暗い中におにいさんがいて　黙ってた。私も黙ったまま通り過ぎた。　ほんの半日間　札幌を見て　さわってきた感じ。１９９６年１０月

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のろばっぱ（いい、きょうはこれで）（N)　夫は今日は１００人の人の前でしゃべるらしいですよ

ほっけくん（H）どきどき

（N)　さすが緊張して　

（H）のろばっぱだったら　ひっくりかえってますね

（N)　咳はとまらず　トイレに走り

（H）あーあー　そのくらいにして

（N)　北海道　２０年近く前に行ったってわけね

（H）文面見てると　のろばっぱも今より意欲がありますね

（N)　ほんまやね

（H）フリマにふられた後　公園のベンチでぼんやりこしかけてるのろばっぱ

（N)　「てかざしさせてもらえませんか」なんて人にも会ったわね

（H）どうでした？

（N)　どうせ　時間はあるんだし　疲れたし　かざしてもらいました

（H）ときは１９９６年秋

（N)　すすきのあたりで　ちゃうがな