第一話 はじめまして、夫です。

 大変唐突ですが、みなさん、私はここに登場してもよかったのでしょうか。

 

ここは、文子さんのことを好きな人、もしくは文子さんに何かしらの興味を持っている人が見る場所です。仮に「へぇ、夫が登場したわ。ちょっとは興味あるかしら」という人が大半に違いないと前向きに考えてみたとして、しかし、世の中には「木村拓哉が好きだから、工藤静香はちょっとね」という人もいるわけです。となると、私のことを"ちょっとね"と思う人がいるだろう可能性は否めません。

また、「どうして工藤静香を選んだのかしら。正直、キムタクにはがっかりしたわ」などという場合も考えられるでしょう。つまり、私が今後このような形で登場する回数が増えていくにつれ、「どうしてこんな夫を選んだのかしら。正直、成瀬文子にはがっかりしたわ」という場合も充分に考えられるということです。嗚呼、恐ろしい。何が恐ろしいって、どちらにせよ、これらの場合、私は誰かに確実に嫌われてしまっているではありませんか。

 

「だったら、お辞めなさいよ」。そうおっしゃる人もいるでしょう。しかし、困ったことがあるのです。私は目立ちたがり屋であるということです。ただし、ただの目立ちたがり屋ではありません。主役は、嫌なのです。

 初めから何かしらの期待をされる"主役"というポジションのプレッシャーに打ち勝つ度量など持ち合わせていないことは、この歳までに起こったさまざまな出来事を通じてよく分かっているつもりです。最近のことで例を挙げるとすれば、私たちの結婚式でしょうか。結婚式といえば新郎新婦が主役です。ただの目立ちたがり屋であれば、こんな好機は一生を通じてもそうそうめぐり合えるものではありません。ただ、過剰なまでの緊張によって私が結婚式においておかしてしまった数々の醜態は、第一回目にして語れるほど甘いものではありませんでした。この出来事も、「自分は主役向きではないのだ」と私が強く悟った一因です。

しかし、どうでしょう。他人の結婚式となると私は俄然いきいきとその能力を発揮するのです。昨年も私の妹、文子さんの弟の結婚式が立て続けにあり、その場での私の余興、司会っぷりは、玄人はだし、感度の鋭い人であれば「アイツ、何者だっ!」と得体の知れぬ嫉妬の嵐にさいなまれたことと思うのです。このような私の特質を知ってか知らずか、文子さんが「最近、"猫か夫か日記"更新してないから、書いてみない」などと魅惑の言葉を投げかけてきたのです。そうしてまんまと私は今これを書いている。

 

 話が長くなってきたので、少しまとめましょう。私は、赤レンジャーより、黒レンジャー。翼くんより岬くん。浜崎あゆみよりも安室奈美恵。ビートたけしよりも北野武。・・・・・・つまり、おいしいとこで目立ちたい、目立ちたがり屋である。しかしながら、人から嫌われるのは嫌だ。すごく嫌だ。恐いから。そして、この場で何かを書くことは、その可能性を充分に秘めている。

 と、ここまで書いてきて気付いたことがあります。少し前の文子さん発言に戻ってみましょう。「最近、"猫か夫か日記"更新してないから」。どうでしょう。これは、私に興味がなくなった、ということではないでしょうか。夫婦の危機なのではないでしょうか。そうなると、仮にみなさんの賛同が得られたとして、これを書き続ける場所すらなくなってしまうのではないでしょうか。

 

みなさん、私たち夫婦は大丈夫なのでしょうか。

 

追伸:私は、木村拓哉も工藤静香も大好きです。また、彼ら夫婦を例に挙げたのは、私たち夫婦が彼ら夫婦と同等の知名度があるなどと思っているわけでは決してありません。あくまでも分かりやすさを考慮したうえで取り上げたまでです。だから、どうか、勘違い夫婦などと思わないでください。ちなみに、私は「ロングバケーション」の台詞をすべて言えます。