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モームさん

スキャン4803.jpeg『月と六ペンス』

「向うじゃはたして僕に会いたいかどうかわからないが。僕に会えば、忘れてしまいたい頃のことを思い出さすことになるかもしれないからね。だが、いずれにしても僕は行くよ。彼の絵を見るチャンスはあるだろうか?」
「彼からは望めないね。彼は何一つ見せてくれない。僕の知っている小っぽけな画商で、彼の絵を一つ二つ持っているのがある。だが、僕と一緒でなけりゃ行っちゃだめだよ、君にはあの絵がわかりっこない。僕が行って君に見せてやらなくちゃだめだ」
「ダーク、いい加減になさいな」ストルーヴ夫人は言った。「あんな仕打をされたのに、よくもまあ、あの男の絵についてそんなことが言えますわね」夫人は私の方を向いた、「オランダの方達が主人の絵を買いにここにいらっしゃった時、主人てば、ストリックランドの絵をぜひお買いなさいってあの方達をとき伏せようとしましたのよ。どうしてもあの男の絵をここへ持って来て見せて上げるといってききませんの」
「で、奥さんは彼の絵をどうお思いになりました?」私はほほえみながらそう訊いた。
「ひどいものですわ」
「ああ、お前、お前にはわからないんだよ」
「でも、オランダのお客さま方もあなたのことをとても怒っていらしたわ。あなたが一杯かついだんだとお思いになったのよ」
 ダーク・ストローヴは眼鏡をはずして、ふいた。紅潮した顔は興奮に輝いていた。
「美というものは、この世で一番貴いものなんだよ、それがぶらっと通りすがった者が何気なく拾い上げる海辺の石ころのように、そこらにころがっているなどとどうして思えるんだね? 美というものは、芸術家が混沌としたこの世の中から、自分の魂の苦しみでもって作り上げたあるすばらしい、不思議なものなんだ。 そして芸術家がその美を作り上げた時、すべての人にわかるようにはできていない。その美がわかるためには芸術家の冒険のあとを自ら辿ってみなくてはならない。それは芸術家がみんなに唱ってきかせる音楽なのだ、自分自身の心の中で、再びその唄を聞くためには、知識と豊かな感受性と想像力が要るのだ」
「じゃ,私があなたの絵をいつも美しいと思ったのは何故でしょう?最初一目見たときから、すばらしいと思いましたわ」
 ストルーヴの唇が少しふるえた。
「お前はもう寝ておいで。僕は友達と少し歩いて来る、それから帰ってくるからね」

芸術家というものについて、美というものについて、こんなに真摯に語るところを読ませてもらえるのは、もしかして初めてのような気がしたのはどうしてなんでしょうね。
ダーク・ストローヴは著者なんじゃないかと。
この画家は どんな風な道を辿ったのだろう そう10代の頃画集を見ながら自分も思いました、それは絵がそう思わせたのかもしれません。

「美というものは、この世で一番貴いものなんだよ」
そうなんだね
「芸術家が混沌としたこの世の中から、自分の魂の苦しみでもって作り上げたあるすばらしい、不思議なものなんだ」
ひえー、そうなんだね
「そして芸術家がその美を作り上げた時、すべての人にわかるようにはできていない」
そうかもしれませんね
「その美がわかるためには芸術家の冒険のあとを自ら辿ってみなくてはならない」
そうか
「それは芸術家がみんなに歌ってきかせる音楽なのだ」
「自分自身の心の中で、再びその唄を聞くためには、知識と豊かな感受性と想像力が要るのだ」

ダーク・ストルーヴの言葉は うっとりするね

いっぱいひろったとき わくわくしてね、子供にも見せずに大事にとっておいたんです


《 2021.04.13 Tue  _  読書の時間 》